エリスとバディになってから、初めての夏。
うだるような暑さの中でレッスンした後でも、エリスは元気いっぱいだ。
- エリス
- 「はい、バディさん。おつかれさま♪」
持ってきてくれた冷たい飲み物を、お礼を言って一口。
エリスはくすくす笑いながら、
- エリス
- 「ほらほら、元気出して。もうすぐ臨海学校なんだよ、海辺の旅館に泊まるんだって! ビーチがあるし、動物園もあって、アイスが美味しいお店でしょ、それから……んーっと、とにかくいっぱいあるんだよ! ぜーんぶ、一緒に遊びに行こうね」
- 十萌
- 「ピッピー! イエローカードです。エリスちゃん、観光旅行とは違うんですよ。バディさんも、しっかり面倒を見てあげてくださいね」
- エリス
- 「大丈夫だよ、十萌さん」
そして、太陽よりも眩しい笑顔をこちらに向けて、
- エリス
- 「バディさん、一緒に最高の夏の思い出を作ろうね!」
*
臨海学校当日、バスは旅館に到着した。
- エリス
- 「とうちゃーく! 海だあ〜〜〜! バディさん、さっそく出かけよ? 遊びに行くんじゃないよ、スターらしく、レッスンレッスン!」
- 十萌
- 「夕方まであんまり時間が無いですから、早めに帰って来るんですよ〜」
- エリス
- 「は〜〜〜い♪」
エリスは持ち前の明るさで、土地で暮らす人々とふれあい、たちまち溶け込んでいく。
集まりがイマイチな漁協主催のノド自慢大会への、人集めも引き受けた。
その夜、旅館に戻って大広間へ行くと——
- エリス
- 「うわぁ〜、すっごいごちそう!」
- 学院長
- 「うぉっほん。皆、楽しそうじゃな。だが、食べるのはワシの話を聞いてからじゃ」
学院長先生が、マイクを持って話し出す。
- 学院長
- 「こうして毎年行なっている臨海学校じゃが、バディの親睦を深めることだけが目的ではない。スターとは、全国の人々に笑顔をもたらして初めて認められる称号。学院から離れたこの土地の方々と交流し、人の喜びとは何なのかを感じ取るのじゃ。最終日には、地元の皆さんにも審査に加わってもらって、真夏のスターグランプリを行う。学んだ成果をしかと見せよ!」
- エリス
- 「あの〜」
- 学院長
- 「真白君、質問かね?」
- エリス
- 「いただきますは、学院長先生が言ってくれるんですか?」
- 学院長
- 「もちろんじゃ。いただきます!」
*
エリスが様々な場所で声をかけたこともあって、ノド自慢大会は大盛況!
最後にステージに登場したエリスも、大きな声援と拍手を浴びていた。
- 漁協の組合長
- 「ほんとにありがとよ。みんな喜んでるし、おかげで辺りの店も大繁盛だ! お礼と言っちゃなんだが、こいつをもらってやってくれ」
箱いっぱいの海の幸やお菓子に、エリスも大喜びだ。
- 漁協の組合長
- 「真夏のスターグランプリってのもやるんだってな? 今度は俺たちが人集めに協力するぜ!」
*
二日目の夜——
- 学院長
- 「二日目はどうじゃったかな? 土地の方々と交流しておる者もおるようで、ワシとしては嬉しいかぎりじゃ。与えられるレッスンにひたすら打ち込むのも、悪いとは言わん。しかし、新しい出会いを求めて勇気を出して飛び出していくことが、自らの力で運命を切り開いていくことにつながるのじゃ」
- エリス
- 「自らの力で、運命を切り開く……」
- 学院長
- 「さて、明日の夜はクラス対抗のかくし芸大会じゃ。一同、とっておきのネタの準備は出来ておるかな?」
食事の後、皆が思い思いに過ごす中、
- エリス
- 「あそこにいるのは、上保くんと……ファルセットちゃん? 何してるのかな?」
- ファルセット
- 「衛星電話機能を起動します」
- 光貴
- 「もしもし、こちら光貴だ。例の件、手はずは整ったか?」
- エリス
- 「なななな、何してるんだろ? ファルセットさんの耳に口を近付けて……も、もしかして、二人はそういう関係で、ほっぺに、ききききキス……きゅうぅぅぅ〜〜〜」
真っ赤になったエリスは、目を回して倒れてしまった。
翌日、二人でビーチを歩きながら、かくし芸の最後の詰めをしていると、
- 琴寝
- 「あ、エリスだ! お〜い!」
- エリス
- 「琴寝ちゃん! 今日はレッスン、お休みなの?」
- 琴寝
- 「まあね。台風が直撃する前に遊んでおかないと、もったいないわよ。たまには下僕も楽しませてやんないとだし」
- エリス
- 「台風?」
- 琴寝
- 「知らなかったの?」
- エリス
- 「やだなあ、台風かあ……」
琴寝が「じゃ〜ね〜」と去っていくと、入れ替わりに上保光貴が現れた。
- 光貴
- 「やあ、奇遇だな」
- エリス
- 「あ〜〜〜っ! 星華学院・上から目線ランキング年間グランドスラムの上保くん!」
- 光貴
- 「庶民の君たちも、リゾートを楽しんでるかい? 僕は自家用クルーザーでダイビングとしゃれこんでいるがね」
- ファルセット
- 「クルーザーはわたしが運転しています。波が高くて船が揺れて、光貴さまのように「ママ〜! 沈んじゃうよ〜」と泣き出しても、抱っこして頭をなでてあげるヘルプ機能付きです」
- 光貴
- 「よ、余計な事は言わんでいい! さあ、行くぞ! 今晩のかくし芸大会は、我々が盛り上げるのだ!」
- ファルセット
- 「はい」
- エリス
- 「ファルセットさん、お互い頑張ろうね!」
そして、かくし芸大会本番。
レッスンで演技力を伸ばしていた甲斐もあり、エリスを中心としたコントは大受けだった!
- エリス
- 「やったあ! わたし達のクラスの勝ちだ!」
- 光貴
- 「そ、そんなバカな……いや、これはあくまでリハーサル。本番は、真夏のスターグランプリだ!」
- 十萌
- 「その事なんですけど、台風が来るそうですし、もしかしたら雨天中止になっちゃうかもですよ」
- 光貴
- 「そんなことが認められるか! ファルセット、台風でも晴れに出来る機能はないか!?」
ドッと爆笑が起きた。
*
翌日、幸いにも台風は予報されていたコースから大きくそれてくれた。
エリスと二人、ビーチでレッスンしていると、ヘリコプターが上空から舞い降りてきた!
- エリス
- 「きゃっ! なになに!?」
- 光貴
- 「ビーチでお楽しみの皆様、上保グループより、フードとドリンクの無料サービスです!」
たちまち観光客は、「無料だって!?」「すいませーん、1つくださーい!」と、押すな押すなの大騒ぎ。
- エリス
- 「上保君にしては、ずいぶん親切だね。でも、海の家の人たちは、お客さんがいなくなって困っちゃうよ。どうしてこんな事するんだろう?」
- 観光客
- 「いや〜、太っ腹だねえ。ん? 紙コップに何か書いてある。なになに、真夏のスターグランプリでは、上保光貴とファルセットに清き一票を……?」
- エリス
- 「分かった! 上保君は、真夏のスターグランプリをカイシュウしようとしてるんだ!」
- 十萌
- 「カイシュウ……買収の事ですか?」
- 光貴
- 「ふふふ、買収作戦は順調のようだな。発電機の方も手は打ったし、これで優勝は間違いなしだ」
と、エリスが突然、設営中のステージに上って歌い出した!
- 光貴
- 「あいつは……何のつもりだ?」
- 地元の人
- 「お、イベントかな?」
- 水着の女性
- 「パラソルも用意されてるわ! 行きましょうよ。暑くて日陰を探してたの」
歌声と日陰を求める人々が、続々と移動していく!
- 光貴
- 「ぐぬぬ……くっそぅ……」
歌いながら向けてくる視線で、エリスはこう言っていた。
「これで、バイシュウ作戦なんて気にせず、本番で勝負できそうだね!」
そしていよいよ、真夏のスターグランプリ本番——
- エリス
- 「さあ、そろそろわたし達の出番だよ!」
——ガコンッ!
突然イヤな音がして、ステージの照明がダウンした!
- エリス
- 「あ、あれ?」
- 光貴
- 「おやおや、ついてないねえ、こんな時に発電機が故障するとは」
- エリス
- 「上保くん、何かしたんじゃ……」
と、何台ものトラックのヘッドライトのまばゆい灯りが、ステージを照らし出した!
- 漁協の組合長
- 「エリスちゃん!大丈夫だ! 土地の連中で、照明は何とかしてやる! しっかりやるんだぜ! 何たって、エリスちゃんは俺達のスターだからな!」
- エリス
- 「……うんっ!」
エリスは素晴らしいステージを披露し、見事、グランプリを獲得した!
- エリス
- 「バディさん! みんな! 一緒に作った、最高の夏の想い出だよ!」
- 学院長
- 「優勝おめでとう。賞品として、名産のスイカ1年分が届いとる。スターとは、人々と夢や希望を分かち合う仕事。それを一番実現できたのは、間違いなく真白君だ。これからも、頑張るんじゃぞ」
- エリス
- 「はい、ありがとうございます!」
エリスたってのお願いで、スイカは応援してくれたみんなで分け合うことになった。
- エリス
- 「だって、みんなで取ったグランプリだから、賞品もみんなで分けようと思ったの」
最後に残った一玉は、エリスが家に持ち帰ることに。
自分用のお土産は……エリスの笑顔だけで充分だ。
エリスの去った後の海の家は、以前にも増して大繁盛。
この夏限定のスイカが、大評判になっているのだ。
そのスイカには、満面の笑みをあしらった「エリス印」のシールが、ひとつひとつに貼られていた。
エリス 臨海学校編・おわり