スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

坂田凜々子 前編

星華(せいか)学院。
世界的に有名な芸能学校であるここでは、芸能部とマネジメント部の生徒同士が「相棒(バディ)」になるのがルール。
だが、相棒はいまだ見つからずにいた。
かつては芸能部で将来を嘱望されていたが、ケガのためにマネジメント部に編入になって以来、夢を見失って腐っていたのだ。

お昼時のカフェテリアは、希望に顔を輝かせた二人組の生徒ばかり。
ここで食事をとるのも最後になるかもしれない——
退学を考えながら入っていくと、

「よ〜〜〜け〜〜〜て〜〜〜っ!」

声の方に振り向いた途端、熱々の月見うどんを顔面に浴びせられた!

「あっちゃー! ごめんね、すぐ拭くから!」

うどんを飛ばしてきた女の子は、ちょっとバランス崩しちゃってとか言い訳をしながら、おだしまみれになった顔をゴシゴシ擦ってくれる。
……三日前に拭いた牛乳臭い雑巾で。
と、校内放送を知らせるチャイムが鳴った。

校内放送
「芸能部の坂田凛々子さん、マネジメント部の……君、至急、学院長室まで来て下さい」
凛々子
「わわ、なんか呼び出されちったし! 参ったなあ〜」

人懐っこくて騒がしいこの子、坂田凜々子というらしい。

凛々子
「とりあえず着替えなきゃだし、ちょっと一緒に来てくんない? こっちこっち!」

学院長室——

学院長
「来たか、坂田君……で、着ぐるみのヒヨコの手を引いとるのは……?」
凛々子
「月見うどんがうちから逃げて、フェイスにオンしてピヨピヨなんです!」
学院長
「まったく意味がわからんが……無理やり着替えさせられた? ふむ……君達二人がバディ探しに苦労していると聞いて呼び出したんじゃが、いらぬ世話だったかもしれんな」
凛々子
「え? この人、バディになってくれるの? やりいっ♪ はじめまして、坂田凛々子です! 花も恥らう18才、好きな食べ物はうどん! あんまり熱くないやつね! 嫌いな食べ物は特に無くて、お皿以外なら何でも美味しく食べられます! 趣味はでっかい建物を見ることで、夢は天下統一……」

延々と喋り続ける凛々子。
今までバディが見つからなかった理由も、何だか分かった気がする。

レッスン中の凜々子はそれなりに真剣だが、終わった後はふざけてばかり。
真剣に取り組もうとする態度が一向に見られない。

凛々子
「ハニー、今日のうち見てどう思った? ほれた? チューしたい? ハニーはやめてくれ? じゃ、ハチミツは?」
光貴
「おやおや、誰かと思えば。まだ学院に居座って、無駄な努力を続けてたのか」

上保光貴が現れた。
光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わり、こちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。

光貴
「フッ、学院のナンバーワン馬鹿・坂田凛々子と組むとは、とことんまで落ちぶれたものだな」
凛々子
「ナンバーワンだなんて、そんなに褒められたら照れるわ〜」
光貴
「才能のカケラもないゴミクズは哀れなものだな。おっと、馬鹿が伝染る前に退散するとしよう。わーっはっはっは!」
凛々子
「……ん? ハニー、どうしたん? 悔しくないのかって?」

凜々子はふと哀しそうな顔をした。

凛々子
「別に悔しくないよ。才能ないのはホントだし……」

ロケーションを変えてのレッスンでも、凜々子はおちゃらけてばかりだ。
怒る気にもなれず、今日はこの辺でと切り上げようとした時、またしても光貴とばったり会ってしまった。

光貴
「まだいたのか、底辺ズ」
凛々子
「底辺ズ? それいいかも! せっかくバディが出来たんだし、コンビ名決めようと思ってたんだ。コーキー、他にアイデアない?」
光貴
「コーキー? 失礼なあだ名をつけるな!」
凛々子
「コーキー、やなの? んも〜、ワガママだな〜。じゃあコーギー。あ、それじゃ犬になっちゃうか」
光貴
「な、なんて不快なコンビだ……」

翌日——
学院の実技試験が近いというのに、凛々子は相変わらずだ。

凛々子
「ん? 明日の試験? だいじょーぶ、だいじょーぶ! テキトーにやってれば、なるようになるって!」

試験の出来は散々で、当然といえば当然だが不合格。
光貴のバディであるアンドロイドのファルセットに比べると、まるで大人と子供の差だった。

先生
「う〜む、アンドロイドとはとても思えない……技術の進歩もここまで来たか」
光貴
「我が上保グループの技術の結晶ですからね。そんじょそこらの人間には、いささかも劣らないはずです」

こちらに向けた光貴の目には、侮蔑どころか憐れみまで混じっていた。

光貴
「少なくとも、そこにいる馬鹿どもよりはね」
凛々子
「コッキーナが、うちのことチラ見してる……もしかして、好きなのかな? ねえねえ、バディはどう思う?」

苛立ちのあまり、伸ばしてきた手を思わず振り払ってしまった。

凛々子
「……ごめんね……」

そんなことがあったのに、翌日になると凜々子はもう元の調子だ。

十萌
「凛々子ちゃん、追試の準備、ホントにちゃんと出来てますか? これが不合格だと、大変なことになっちゃうんですよ」
凛々子
「心配しなくても平気だって。合格目指して、うどん断ちまでしてんだし。今朝の『おはようめざましニュース』の星占いでも最下位だったし、落ちるとこまで落ちて、あとは上がるしかないってことだと思うんだよね〜」
十萌
「凜々子ちゃん……」
凛々子
「楽しみだな〜、うどん断ち明けに食べるうどん。あ〜、想像したらよだれが……バディの服で拭こっと」

「止めんか」と頭に軽くチョップを入れると、凜々子は少し驚いた顔をした後、「おお〜っ、ナイスツッコミ!」と親指を立ててみせる。
凜々子の方から、謝るきっかけを作ってくれたのかもしれない。
この間は手を振り払ってしまって、こちらこそ悪かった。
すると凜々子はますますびっくりして、けれど次の瞬間には泣きそうになるのを微笑みでごまかしながら、小さな声で言うのだった。

凜々子
「うちの方こそ……バディまで笑いものにならないように、もうちょっと頑張ってみるね」

おちゃらけた態度には理由がある。
本当の凜々子は誰より純粋で、けれど不器用で、自分に全然自信がなくて……弱さを隠したいから、わざと面白おかしくふるまっているのだ。
バディとして二人で歩むためには、叱ったりお説教するだけじゃダメだ。
一緒に笑って、笑われてあげよう。

凛々子
「ボエ〜〜〜♪ どうどう? 私の歌。ほれた? チューしたい? 握手券ついてなくてもCD欲しい? え〜っ、欲しくないの〜。ジャ○アンといい勝負? 何でよ〜。じゃあ、もう一回練習ね。いえ〜い♪ イッツ・ア・ショウタ〜イム♪」

坂田凜々子

周りの人からクスクス笑われたっていいじゃないか。
底辺ズなんてバカにされたって構わない。
きっといつか、本当の凜々子と向き合える日が来る。
その時まで、信じてそばにいてあげるのだ。

凛々子
「ねえねえ、何書いてんの? 離婚届? ううっ、そもそも結婚してないけど、やっぱりニクタイ生活の不一致が……あいたっ! 本気で叩いた〜」

レッスンを見てやりながら記入していた紙を渡す。

凛々子
「え? プロフィール? ステージイベントの司会? うちのために探してきてくれたんだ。やったあ! ありがとね! バディちゃんスキスキ〜、チュ〜……んむむむむむ!」

本当にキスされかねないので、近づけてくる顔面を手で押さえてブロック。

凛々子
「そんな、うちのことは遊びだったん? むきーっ! 他に女が出来たんでしょ〜。なら、うちだって浮気してやるっ! 十萌さ〜ん、セクハラさせて〜〜〜っ」

相変わらずバカを言いながら去っていく凜々子。
その晩のことだった——

坂田凜々子 後編につづく

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