interview インタビュー
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3DCGの未来

〜CGアニメとメディアリレーション〜
【第33回/2019年1月号】
近藤義仁(GOROman/株式会社エクシヴィ代表取締役社長。VRエヴァンジェリスト)

日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。「3DCGの未来 ~CGアニメとメディアリレーション~」とリニューアルをし、CGアニメと関係するさまざまなメディアのキーパーソンにお話をうかがっていく。リニューアル後、第2回は前回の「CGWORLD」沼倉編集長のお話でも名前が挙がったGOROman氏。VRが現在のように話題になる以前から、いち早くこの技術と可能性に注目し、
エヴァンジェリスト(伝道師)として活動をする中、代表を務める自社の活動と自身の人生まで変えてしまった、まさにVRの申し子。日本で誰よりもVRの未来を見通す彼にVRの世界の状況とCGとの関係性を聞いた。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
Supported by EnhancedEndorphin

VRに魅せられて「会社は副社長に任せることにした」

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):VR業界の現在の勢いを見ると、黎明期の日本のCG業界に似ているなと思うことがあります。つまり、直接的に企業の利益になるかどうか分からなくても、とにかくやってみようとする盛り上がりを感じるんです。
VRはジャンルが広いのでその辺リンクするところがあるのかなと、そのあたりをVRのエヴァンジェリストであるGOROmanさんに聞いてみたいと思います。

近藤義仁(以下、GOROman):CGの黎明期だった90年代前半にも、産業用VRとか、SEGAの「VR-1」(※1)「バーチャルリアリティー」ブームがありましたよね。この時は今のようにコンシューマに来る前に収束してしまったのですが、僕は持っていたX68000(※2)に立体視ポートがあったので、それにヘッドマウントディスプレイ(HMD)を改造して取り付けたりしていました。 そんな風に中高生の頃からVRに親しんでいたので、2012年8月にOculus Rift(※3)を見つけた時は、スゴいモノが出てきたと思いました。当時、バーチャルリアリティ展に行くと700万円のような値段ですから、VR向けのHMDなんて個人が買うような時代ではなかったんですよ。それが、300ドルで買えるとなり、もう、即座にクラウドファンディングに応募しました。 届いたモノは期待を大きく上回るもので、パソコンに出会った時と同じくらいの感動を覚え、会社の仕事をほっぽり出して、夜な夜な「スゴいモノがあるので見に来て」と、いろんな人に見せていました(笑)。

(※1)VR-1
SEGAが1994年にアミューズメント施設向けに開発したバーチャルリアリティーアトラクション。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着したプレイヤーがライドマシンに乗り、最大で32人同時に遊ぶことができるシューティングゲーム。

(※2)X68000
1987年にシャープから発売されたパソコン。アーケードゲームの忠実な移植でホビーユースとして高い人気を誇る。'95年までシリーズ後継機がリリースされていた。

(※3)Oculus Rift
現在のVRブームの礎を築いたHMD。当時、Kickstarterで募集していたのは開発者向けキットのDevelopment Kit 1 (DK1)。製品版とは異なり、液晶パネルで解像度もフレームレートも現在の水準からすると低いものだった。

野口:その頃、エクシヴィ社はどんなお仕事を?

GOROman:遊技機の案件やゲームコンテンツの開発を受託していました。VRも最初は趣味のつもりだったのですが、これに全部の時間をつぎ込みたくて、会社は副社長に任せることにしたんです。2014年の新年会で「ちょっとアメリカ行ってくるわ」と言ったら、みんなポカーンですよ(笑)。 それで、そのまま空港へ直行して、CES(※4)に行ったんです。そこにはオキュラスの小さなブースがあって、Development Kit 2のプロトタイプもありました。そうしたら、偶然オキュラスの創設者であるパルマー・ラッキーが入ってきて、彼とはアポが取れていたわけではなかったのですが、「日本から来た」と言ったら「ソードアート・オンライン」(※5)の話で盛り上がっちゃって(笑)。 以降、彼が登壇する場をすべて追いかけて行きました。

(※4)CES
コンシューマー・エレクトロニクス・ショー。毎年1月にラスベガスで開催される世界最大規模の家電見本市。さまざまなハイテク機器の出展が行なわれる。一般非公開。

(※5)ソードアート・オンライン
川原礫によるライトノベル。主人公がHMDを被り、MMORPGの中で戦いを繰り広げる。著者自身のウェブサイトでは2002年から公開されていたオンライン小説だったが、2009年より商業出版され、2012年よりアニメシリーズがスタート。その結果、海外のゲームファンにも広く知れ渡る。オキュラスの創設者であるパルマー・ラッキーも熱烈な支持者として知られる。本編第3期が2018年10月より放送中。

野口:それでトントン拍子にGOROmanさんがOculus Japanを任されるように。

GOROman:トントン拍子というほどでもありませんでしたが、知らない人間に任せるくらいなら僕らに、という感じで話が進んでいました。ところが3月に帰国したタイミングでオキュラス社がFacebookに20億ドルで買収されるという報道があり、「ハァ!?」って感じですよ(笑)。

野口:そのときまでに買収の話は?

GOROman:もちろん、まったくありません。守秘義務中の守秘義務ですからね。それで、オキュラス・ジャパンのメンバーとして半年ほど活動し、10月にFacebookに入社したという形です。Facebookに買収されてからは方針などが変わり、やりづらい部分もありましたが、ただ、現在のOculus Goを199ドルで出せるのは、確実にFacebookの資金力あってのものなんです。アメリカではOculusはベストバイのような家電量販店でも売っていますし、Amazon.comでも買えます。日本でも昨年末にAmazon.co.jpで買えるようになったし、これからさらに広まっていくと思います。

VRはポスト・スマートフォン的な存在に

野口:現在、日本のCG業界にはある種の閉塞感が感じられたりもするのですが、そうやってVR市場が拡大するのであれば一気に世界へと出て行けるのではないかという期待感があります。東映アニメーションでも「ゲゲゲの鬼太郎 xRデジタルアートプロジェクト」(※6)という取り組みをしているのですが、これはイベント向きです。VRコンテンツの個人作家のような方は現れるのでしょうか?

(※6)「ゲゲゲの鬼太郎」アニメ化50周年記念xRデジタルアートプロジェクト
東映アニメーションとGugenka、ダイナモピクチャーズが2018年に共同制作したVR/AR/MR、3DCGでのデジタルアート作品。
https://gugenka.jp/event/kitaro.php

GOROman:出ると思いますよ。僕もOculus Goを学生に配っていましたし、VRサークルができている大学もあるそうです。むしろ学生さんの方が柔軟にやられるんじゃないかな。twitterを見ていると個人で作っている人もたくさんいます。ただ、SteamとかOculusのストアで売ることができるのですが、販売するまでの敷居が高いんですよね。英語で審査を通す必要があり、そこがボトルネックになって、まだエコシステムができていないんです。今年の春にはOculus Questという新モデルが出るので、そのあたりでヒット作が生まれるといいなと思います。

野口:採算度外視の話で言うと、サンフランシスコにはすでにbaobab社というVR専門のアニメ会社があって、収益を考えずに作り続けているところが、創業間もない頃のピクサーのような印象です。驚いたことに『Invasion!』(※7)という作品でエミー賞まで受賞しています。

(※7)『Invasion!』
2016年Baobao Studios制作。監督は『マダガスカル』を手がけたEric Darnell。
https://www.youtube.com/watch?v=SZ0fKW5PttM

GOROman:無料ですからね。他にもサンフランシスコには出資を受けている会社がすでにいくつかあります。おそらくVRアニメのスタンダードのポジションを取りたいのでしょう。

野口:ああいった作品作りは日本では難しいですかね?

GOROman:日本でもやっていますね。単体で収益化、となると容易ではないかもしれませんが、『狼と香辛料』VRアニメーション(※8)でのクラウドファンディングで製作資金を集めるプロジェクトは大成功を収めました。海外ではゲームだと収益化ができているものもあると聞いています。

(※8)『狼と香辛料』VRアニメーション
原作者完全監修、アニメと同キャストによる新作VRアニメーション。クラウドファンディングで7000万円以上の資金を集めた。2019年に公開予定。
http://spicy-tails.net/saw-vr/

野口:そう、ゲームが良いのかもしれません。さらにゴールドマン・サックスは2025年にはVR市場が最高で12兆円産業になると予測しています。その頃にはもっと薄くて買いやすいものが出て、先ほどのようなエコシステムもでき上がるのかなと。

GOROman:Facebookもメガネ型を開発していますからね。VRは単なる娯楽デバイスであるのではなく、生活を変え日常使いのモノにならないと本当には広がらないだろうなと思います。つまり、ポスト・スマートフォン的な存在にならなくては。

野口:VR会議が便利だそうですね。まだ私は体験したことがないのですが。

GOROman:Facebook Spacesというアプリや、Oculus Goだと「Oculus Rooms」というのがありまして、そこではVR空間で一緒に資料を見たり、画像を取り込んで空間をハサミで切り取って渡したりができるんです。こんなふうに、VR Chatとかも含めコミュニケーションのツールとして、まずは広まると思います。 僕は日常できる仕事はすべてVR側でもできてほしいなと思っている人間なんです。少なくとも今の日常でできること以上に便利にならないと、なかなか普及していかないだろうなと。このインタビューも、みんなでVR上に現れて取材が終わると消えるという感じに。先日、実際にVR上で取材を受けましたよ。その際、僕は相手の実際の姿を見ていないんです(笑)。でもキチンとした形の記事になりました。

野口:政府の動きはいかがでしょう?

GOROman:経産省の資料を読むと、VRという単語はちょくちょく出てきます。ただ、CGだったら沖縄にCG会社を作る際に補助を出すとかありましたけど、VRだとそこまで多くない気がします。都会は満員電車の問題がありますから、どこでもオフィスになると地方創生には良いと思うんですけれどね。

予想外のVTuberブレイク。キャラクターコンテンツがVRの起爆剤

野口:2016年頃からさまざまな企業がVRに参入してきましたが、GOROmanさんとしてはその盛り上がりをどのように実感していますか?

GOROman:この5年間見てきましたけれども、VR ChatとかVTuberといった、エンジニアではない層への広がりが想定外でしたね。しかも彼らはアバターになるために20万円クラスのハイエンドツールを買うんです。今後、それはもっと増えるだろうなと思います。iOS 12の新機能のひとつ「Memoji」なんて、まさにアバター化するためのツールです。 Facebook Spacesもそうですし、リアルとは違うもう一つの自分になって生きられるという流れが世界的にできつつあります。

野口:そういう予想外の出現によってGOROmanさんの活動は変化していきましたか?

GOROman:たとえば、SHOWROOMで配信している東雲めぐちゃんに「AniCast」(※9)を使っていただいているのは、まさにそういうムーブメントがあったからですね。エクシヴィもこれまでずっとキャラクターVRコンテンツを手がけてきました。自分がDK1を手にしたときに、何に感動したかと言うと、キャラクターと目が合ったり、こっちを認知してくれるということなんです。

(※9)「AniCast」
エクシヴィが開発したアプリ。VR空間に入り込み、自分がバーチャルキャラクターになって演技をし、カメラや背景なども自在に組み替え、一人でもアニメーション制作が可能となるVRアニメ制作ツール。2018年9月にエイベックスと共同で、VRでアニメを作る「AniCast Lab.」を設立。
http://anicast-lab.jp/

野口:360°動画を作るよりも、VTuberのようなキャラクターコンテンツがこれからのVRの起爆剤になりそうです。キャラクターコンテンツを通じて技術を普及させるのは、初音ミクしかり、日本のコンテンツ産業のお家芸ともいえますね。

GOROman:そうですね。「AniCast」はVR技術を使ってアニメーションを制作するものですから。VR内でロケハンもできますし、モーションも撮影も舞台装置を設計したりできます。要はVRはツールになってほしいんですよね。実際にavexさんと運営している「AniCast Lab.」ではそれでアニメを作っています。 パソコンの歴史がそうでしたが、最初はみんなゲームをやりたくて買うけれども、それに飽きてくるとプログラミングをしたりCGのモデリングをしたりする人が現れてきました。つまりクリエイティブには飽きが来ないんです。「AniCast」もそういう存在になってほしいと思います。

野口:未来がありますね。一方で、まだまだVRには各プレイヤーがアニメ、ゲーム、イベントと分かれたまま仕掛けているような気がしています。盛り上げるために、それらを上手くリンクさせる必要性を感じます。

GOROman:最近だとVTuberに会えるライブプラットフォームとしての活用事例が増えてきていますね。VRだからそのキャラクターを間近で見られたりとか、握手会も可能です。なんだか、VRVRと連呼しないほうが広まるんじゃないかなと思います(笑)。そうやって「VR」という言葉が溶けて無くなったときが本当に広まった状態だと思います。 今、「ナントカVR」というネーミングになっているのは、まだ浸透していない状態だからです。なので、無理にVRを絡めるというよりは、キャラクターに会いに行けるコンテンツのほうが良いと思います。僕が活動をし始めた2013年頃も、初音ミクに会えるというアプリを出したら、エンジニアでもない人がDK1を買い始めたんですね。デベロップメントキットをですよ? そういう風に、推しキャラに目の前で会えるライブ体験という動機づけがまず先です。VRだから何かをという順番ではないんですよね。

野口:みなさんに聞かれる話かと思いますが、これからのVRはどうなると思いますか?

GOROman:VRはどちらかと言うとギーク的でマニアックなものですから、AR的なものから先に広がっていくと思います。ARメガネをかけて視界の中に地図の道筋が出たり、お店のレビューを空間上に書き込んでそれをシェアするとか、ポスト・スマートフォンになりやすいのかなと。それと並行してARモードとVRモードがアルファブレンディングみたいになっていて、現実透過度を0%にするとVR、薄くしていくとAR合成みたいになっていく、みたいな広がり方をしていくんじゃないかなと想像します。

野口:VRアニメは広がりませんかね?

GOROman:簡単なVRアニメは、たぶん難しいかと思います。一番懸念されているのが、インタラクションがないにもかかわらず固定画面になりそうだというところです。そうすると防犯カメラみたいな映像になるから、たぶんそれでは面白くないと思います。一般的なアニメって、カット割りとか場面転換とか、監督の意図が入るから面白いのであって、360°の画面に放り込まれてもどうすればいいか分からないから、視線誘導をする必要が出てきます。その点、『Henry』(※10)は、てんとう虫で誘導したりと上手く演出できていますね。

野口:それぞれの特性に合ったコンテンツを作るべしということですね。「AniCast」の今後に期待しています。

(※10)『Henry』
オキュラス・ストーリー・スタジオによるVRアニメ映画。2015年にOculus Rift向けに公開。翌年、エミー賞「Outstanding Original Interactive Program」を受賞。
https://vimeo.com/134754691

近藤義仁(GOROman)
株式会社エクシヴィ 代表取締役社長。PlayStaion1/2/Xbox等のコンシューマタイトル制作に関わり、描画エンジン・アニメーションエンジン等を開発。2010年株式会社エクシヴィを立ち上げ代表取締役社長となる。2012年Oculus Rift DK1に出会い、 自らVRコンテンツの開発を行いVR普及活動をはじめる。並行して2014年からOculus Japan Teamを立ち上げ、Oculus VR社の親会社であるFacebookに入社。 同社退職後は国内パートナー向けに技術サポート、数多くの講演を行ない、現在はVRコンテンツ開発やVRの普及活動を行っている。代表作は Mikulus, Miku Miku Akushu,「初音ミク VR Special LIVE -ALIVE-」ロート デジアイ, DMM GAMES VR × 刀剣乱舞ONLINE 三日月宗近Ver.など多数。2018年VRアニメ制作ツールAniCastを発表。東雲めぐ©GugenkaのSHOWROOM生配信に技術提供。 エイベックスとアニメ制作のパラダイムシフトを目指すAniCast Lab.を設立。著書「ミライのつくり方2020-2045 僕がVRに賭けるわけ(星海社)」
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION : 東映アニメーション
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