• 記事を共有する

INTERVIEW インタビュー

3DCGの夜明け
日本のフルCGアニメの未来を探る〜

【第28回/2016年8月号】
水島精二氏(アニメーション監督)

日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回は2014年に劇場公開され、セルルックCGアニメ新時代を切り開く作品のひとつに数えられる『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(以下、『楽園追放』)の監督を務めた水島精二氏に登場していただいた。本連載でインタビューアを務める野口光一はこの作品のプロデューサーでもある。制作を通じて実際にやり取りをした間柄だからこそ、検証できる技術的や制作的なことがらをじっくりと語ってもらった。そしてそこから導き出されるCG制作の未来像。さらに『楽園追放』続編の話題も飛び出すなど、公開から約2年を経過した今だからこそ世に出せた“対談”となった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
Supported by EnhancedEndorphin

『楽園追放』の制作で培われた作画アニメ的なシーンの構築術d

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):水島監督に『楽園追放』の監督をお願いした時の話は、CGアニメーション業界の人間として、いつか総括して残すべきかなと思っていました。本日は改めてよろしくお願いいたします。『楽園追放』の企画は2009年からスタートしていたのですが、水島さんに監督をお願いしたのは2011年でした。当時はどうなるかまったく分からない状況でしたが、僕としては想像した以上の素晴らしい仕上がりになったと思います。振り返ってみてご自身としてはいかがでしたか?

水島精二(以下、水島):お話いただいたときはどれくらいのことができるのか、僕も分からなかったんですよね。だから勝算のある作品かどうかというよりも、まとまった尺で3DCGアニメ作品をいち早く作らせてもらえそうだというオファーにテンションが上りました(笑)。野口さんが、「この作品は東映アニメーションが製作をしますが、ある意味で日本のCGチームの総力戦みたいなものを世に投じたいと思ってる」とお話されたことにもすごくやりがいを覚えました。しかも脚本は虚淵玄さんが書くということで、企画全体に惹かれてお引き受けしたという感じでしたね。

野口:水島監督は当時、3DCGアニメを制作するのははじめてでしたか?

水島:劇場版『鋼の錬金術師シャンバラを征く者』(2005)や『機動戦士ガンダム00』(2007) など、作品の中で部分的に使ったことはありましたが、全編3Dだけで作るのは初めてでした。なので、全体のワークフローについてはこの作品で学んだかたちになりますね。予算も考え、背景や撮影は基本的に2Dと同じアプローチで、キャラクターのみ3Dに置き換えると伺ったので、それならば作画のアニメの方法論でできるなと思っていたのですが、後で想像以上にモデルが作れないということに直面したわけですが(笑)。当初妄想していた「ラストは人類もフロンティアセッターも一緒になって大スペクタクルな総力戦にしよう!」みたいなことを言わなくてよかったなと思いました(笑)。あとは野口さんに言われた「コンテを全部ひとりで描いてもらいたい」というオーダーもあったのですが、僕はそれほど描くのが早くはないし、時間的にも内容的にもベストでは無いと確信していたので信頼の置ける京田(知己)さんにお話を持って行ったというわけです。後半の戦闘シーンで廃墟だけど都市戦になっているところは、タクティカルの要素も含めてきちっと絵のコントロールができて、なおかつオール3Dという新しいことに興味を持って挑んでくれる、もうひとりの監督のような人が欲しかったんです。

野口:3Dを演出するときはけっこう口で説明できないとけないところが多いですよね。そのあたりが人を選ぶというか。

水島:理路整然と説明できないとダメですね。京田さんは僕より論理的ですからピッタリでした。逆に絵で説明をされてそれに似せて描くと、本当のところで理解していなくてもある程度できてしまうんです。

野口:絵心のある人ほどそのワナに陥ってしまう。

水島:そう。口頭で論理的なことを聞いて、そのときにどうすればいいのか自分の頭で考えてもらわなきゃいけないんです。京田さんは、カットのつながりとかの感覚的なものも含めて「優れたフィルムはこれです」という像を徹底的に教えこんでいたようです。「このアニメを見ろ!」って、実際に見せたりしてね(笑)。京田さんには既存の3DCGとは違う作画テイストな形でそういうアニメを越えて行かなくちゃいけないという熱意がありました。後半の戦闘シーンは本当に素晴らしかったです。

野口:グラフィニカの最初の印象はいかがでしたか?

水島:最初にデモとして、主人公のアンジェラが歩いてひと芝居するテスト動画を見せてもらったんですよね。オーダーから膨らませてくれて、撮影処理もバッチリ入っていて、アニメーションとしてもすばらしくて、このレベルで本当にやりきれるならイケるんじゃないかなと思いました。

野口:実際に制作を始めてからはどうでしたか?

水島:最初はホントに作業のひとつひとつを確認していましたね。シーンとしての構築ができていなかったがために、次のカットとのつながりが悪くなるということがありました。効率を念頭に置いてレイアウトとモーションを分けて考えてしまった結果、レイアウトでOKをもらったあとモーションの作業に行ってからまた戻ってくるということも度々ありましたね。要は芝居がうまくそぐわなかったり、想定できていなかった。「これだとどうしてもガツガツ大股で歩いているように見えないから、絵コンテでは2フレームかもしれないけど、キャラクターを置いて配置して合わせると、もう1フレーム分、レイアウトを足さなきゃいけないね」といった具合のやり取りをしたことがありました。そんなとき、CG監督の阿尾さんが「ラフでもいいから、レイアウトにモーションを付けて、それから監督に見てもらおう」と提案してくれました。ディレクション側も流れを考えてチェックをしていけばロスが減るし、CGアニメーターも完成させるまでに何を考えなければならないのか、要点が一度に学べるようになりました。これは作画のアニメーターならほとんどの人がやっていることなんです。そういうふうに何回か作業フローの更新を行ないました。結果的に作業スピードは上がりましたし、京田さんのパートはずっとカメラが動いているから、やっておいて正解でした。それができるのは頭のなかで全部の流れをコントロールできる演出家でないと難しい。その意味でも監督経験のある京田さんが演出として入ってくれたのは助かりました。

野口:今までだったら作画の人がレイアウトを組んで、それにCGアニメーターが合わせるという方法でしたが、水島監督は最初からCGアニメーターにレイアウトをさせようとしていましたよね。

水島:やっぱり、動きをコントロールしたり映像本編を作るのは間違いなく3DCGアニメーターなので、そういう人がきちっと意図を踏まえて、絵コンテから素晴らしいシーンを作ってくれる方がロスもないし、やっている人も楽しいはず。最初にモーションとか画角とかを手描きで決められ、作画にモーションを寄せていくだけの作業は、その人のスキルには繋がらないと思います。もちろん、勘の良い人はそこから吸収できるかもしれませんが。だからもう、直にやり取りしたほうが、普段から作画アニメーターとやりとりしているのと同じようにキャラクターやシーンを理解してもらえるだろうし、僕はそれを伝えられる自信があったので、最初からこのやり方でやりたいとグラフィニカの吉岡さん(※1)にお話ししてこの作品のために新しいワークフローを作っていただきました。ちょうど吉岡さんも「演出家がちゃんとしていれば、手描きのアニメーターが間に入らなくてもできるはずなんですよ」と、同じことをおっしゃっていたので、速やかに組んでいただくことができました。

※1:吉岡宏起
『楽園追放』チーフアニメーションディレクター。グラフィニカ制作部門・3DCG部門統括取締役 チーフプロデューサー。

野口:その試みをするにあたって不安はありませんでしたか?

水島:いいえ、まったく。以前、他所で似たようなアプローチをしたことがあって、その上でグラフィニカが作ったデモを見たので、最低限ここまで持ち上げたいというレベルを超えられる自信がありました。

『楽園追放』以降に会得したCGでコストを減らす方法d

野口:工程として話は戻りますが、レイアウトの取り方について、最初はずいぶん苦労されているアニメーターがいましたよね。

水島:というか、絵コンテの読み取り方からですよね。格好いい感じのレイアウトにするためには、コンテからズラしたっていいんですよ。しかもそれはレンズを選択するだけでコントロールできる部分もある。グラフィニカのスタッフには「まず50ミリレンズで全部レイアウトを取ってみて、ダメだったらだんだんと画角を変えてシミュレーションしてみて」と言っていました。そうすると画面外でどう見えるかというのが分かるんです。ただ3DCGは単純に広角を計算して出すだけだから、 実写のようなレンズの歪みが発生しない。そうなると感覚としておかしく見えるので、加工する必要が一手間かかります。だから、レイアウトの置き方で工夫できるなら絵コンテから変えてしまっていいと。この画は50ミリだけど次のカットは14ミリになったら、どこに何があるか正確に合わせてもしょうがない。そのときに気持ちいい配置になっていればいいし、絵コンテはそういう描き方をしているからアレンジしていいよと意図を伝えました。「自分で格好いいと思うレイアウトであれば、通るよ」って言ったら、岩崎(沙也佳)さんにはピンと来たようでそこから全部そうなって、しかも絵心もあったらかバンバン通っていきました。あと、金子(友昭)さんは実写的で望遠が多かったですね。コンテでは広角な感じになっていても、望遠でちゃんとカメラ運びをしてくる。だから、どうしても広角にしたいときは「カメラはこの位置でいいので、レンズだけ広角にしてもうちょっと画角的にコレが入るようにしてくれませんか」って説明すると「なるほど」と言ってやってくれました。それぞれにやり方が見られて面白かったですね。

野口:2Dのときもそういう感じでやっているんですか?

水島:いや、2Dは絵コンテからアニメーターが描いてきたものに、直に紙を乗せて自分でレイアウトを取り直したり、修正の指示をすると作画監督が描いて直したりしてくれるんです。絵描きが強いところは、理屈で説得しないといけないから理論武装が大変なんですよ(笑)。

野口:『楽園追放』のあと『うーさーのその日暮らし 夢幻編』、『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』と監督をされましたが3Dの使い方は変わりましたか?

水島:3DCGのスタッフと何を話すべきか、そしてその落としどころについてをすごく考えるようになりましたし、コントロールできるようにもなりましたね。僕のコンテの絵からアニメーターが作る段階でいわゆる「語弊」があったときに、どうするとそういうミスが起こらないか。『うーさー』もレイアウトの段階からアニメーターにやってもら得るようにしました。サンジゲンはセットアップとアニメーターが分かれているため、レイアウトとアニメーションが乖離していると感じることがあったんです。そこで同じ人に両方をやってもらったりとか、3Dディレクターにそこを担ってもらったり。“うーさー”って、どこ向いているのか分かりづらい造形をしているので、そのままモデルを置いたとしても意図通りの絵にはならないという感覚を、アニメーターにはしっかりと身につけてもらいました。

野口:『コンレボ』はどうでしたか?

水島:CGはボンズの安東(容太)さんというディレクターをやってくれて、すごく良かったですよ。エクウスという4本足に変形する車が出てくるのですが、あのメカは彼が「モデルを作りました。これぐらいのアニメーションができます」とアピールしてくれたものなんです。それくらいやる気があった。『コンレボ』は大抵のものは作画でいくと決めていたけれど、車形体とかで一部、メカニック作画監修の大塚健(※2)さんと話をして「使えるところがあったら作画のコストを下げるために使わせてもらおう」と話をしていました。毎週違うキャラが出てきたりとか前半は学生運動の話が絡んできたりとかしてモブをどう描くかがポイントだったので、作画のコストがすごく高かったんです。そこで、記号化するにあたって3Dのモデル自体はボンズの過去ライブラリーから大量に持ってきて加工し全部一色塗りにして3段くらいマップに置いたんです。

※2:大塚健
アニメーター。代表作に『地球防衛企業ダイ・ガード』、『ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU』(ともにメカニックデザイン)、『機動戦士ガンダムUC』(作画監督)など多数。

野口:本来CGはそうやってコストを減らす方向でも使わないとダメですよね。

水島:ええ。だからコストをどう稼ぐかを考えたときに、絵を楽にしつつ、ありものの3Dの素材をちょっと加工し何をやるかというところでのシルエット化。あのシルエットというのも、グラフィカルな背景にすることとセットなんです。そういう意味では、本来の主役であるところのキャラクターたちを描くことに集中してもらえるように、3Dにはだいぶ頑張ってもらいました。なので、第1期の最後のメカ戦の一部は大塚さんに相談して「自分で演出するから3Dでアクションやらしてほしい」と言ったんです。そうしたら、「今まで3Dがすごくいいかたちで協力してくれたからこそ、僕らは自分たちの仕事に集中できたので、水島さんを信頼してお任せします」と言ってくれたんです。

野口:そうなれたのはその人の持つ技術によるものなのか、それともやっぱりプロダクションの違いなんでしょうか?

水島:3Dディレクターの資質が、まずひとつありますね。だから「作画を超える!」といった野心を持って、ある程度の手数に対して文句を言わないで、ダメ出しされたことに対して真摯にやれるかどうかだと思いますね。言ったことが響くか響かないかは、相手側が持っているスキルの問題なので。やっぱりモノを作ったり、人の心を打ったりするにはある一定の水準を超えなきゃいけない。そして上手いアニメーターが作った素晴らしいものを、更に効果的に表現し、定着させるのが演出家の仕事だと思うので。だから演出に対しても僕は厳しくやるし、自分もそうやらなきゃダメだと思ってずっとやってきていますね。

CGアニメーターから監督を輩出する方法とはd

野口:水島さんの場合、アニメ監督・演出家を目指したきっかけは何でしたか?

水島:正直、演出をやりたいって思ったのは専門学校を卒業して撮影会社に入ってからでしたね。専門学校で仲が良かった田中良くんがメチャクチャ上手くて、彼と一緒に仕事をするには演出家だなと。別に演出のやり方が分かってるとかそういうことはまったくなく、なんとなく「演出やりたいんです」って口にし始めたんです。

野口:専門学校の頃はアニメーターになりたいと思っていました?

水島:最初は思ってましたよ。でも専門学校に行ってみたら上手い人がたくさんいて。とても勝てないなと思って2年目は制作管理コースに進みました。ここは撮影をまとめたりとか、いろんなことを平均的に学べて、就職する時は制作進行とか仕上げとかにいくコースだったんですよ。

野口:演出家としての絵の見方とか、指示の出し方は会社に入ってから身につけたという感じですか?

水島:そうですね。かなりいろいろ教えてもらったりだとか。やはりうまいアニメーターと一緒にやらないと学べないなと思います。スタジオファンタジアという会社に入ったときに橋本敬史くんとか森山ゆうじさんとか上手い人がいたので、そんな人たちになんとなく教えてもらったり。僕も演出に関してはちょっと、自分なりにこうやったらいいんじゃないかみたいな自信があって。根拠は何もないんですけど(笑)。それを実践していたらなんとかなっちゃったという感じですね。だから何でなれたのか自分でもよく分からないです。「監督をやりたいんだ!」とか「自分のフィルムを作りたいんだ!」とかではなくて、タイミングがいい時にお話が来てそういう意味では大した挫折もなく現在に至っております(笑)。

野口:いえいえ、運をつかむのも実力あってですから。

水島:でもフリーになる直前かな。悩んでいたときは「自信がない」とか「どれぐらい自分ができるのか分からない」とか常に言ってたみたいで、たぶんその時がいちばん人生で辛い時期だったかな。そんな頃、後にずっと付き合うことになる吉松孝博くんからアメリカにプロレスを見に行かないかと誘われて。「仕事も無くなって、次どうなるか分かんなくて不安なんで、そんな気持ちになれないしお金もない!」と言ったら「金貸すから!出世払いでいいから行こう!」って言われて。同行の仲間が2人いて、このままだと4人部屋で一人知らない人になっちゃう。それが(吉松氏は)嫌だったんですね。自分的にどん底だから、アメリカに行ったら何か変わるかもしれないなと思って行くことにしたんです。そうしたら降り立った空港を出ると空が広くて流れている時間もゆっくりだったんです。旅行してるあいだすごく楽しかったんですよ。で、帰ってくる頃には心に余裕ができてました。そして帰ってきたら、行く前に提出した『スレイヤーズNEXT』の絵コンテが、ほぼノーチェックで通っていたんです。監督の渡部高志さんが「すごく若かった。面白いよ。とりあえず頑張ってやってみて」って言ってくれて。今考えたらカットつながってないところもあるのに。あとで聞いたら「それはわかってたけど、こういうのは自分で痛い思いをして覚えるもんだから」って言われて(笑)。でもホントにすごい勉強になりましたね。当時の自分の思いとかはフィルムに詰まってるので、今見ると恥ずかしいですが。ただ、それからは、監督は直してくれないという恐怖も含め、カットに慎重になりました。

野口:今後、3DCGアニメーターから監督、演出家になる人が増えてくると思いますが、そういう人たちに先輩としてアドバイスはありますか?

水島:結局、監督になるプロセスはいくつかあって、まだ3Dディレクターからというルートができてないだけだと思います。3Dの会社が自社で作品を元請するようになれば、その話数演出みたいなかたちでスキルを磨いて、作家性が見えてきたら監督をやらせればいいんじゃないですかね。それは作画アニメと同じで。僕らの世代に監督が多いのは、単に作品数が多かったんで、チャンスが多かっただけなんですよ。今はまだ3Dが少ないから、もっと学ぶことに貪欲にならないとたぶんダメだと思います。僕も演出になったのは30歳ぐらいだけれども、自分でフィルムを作りたいと思うようになってからは人のフィルムをものすごくよく見てましたし、「自分だったらこうやる」と常に考えていました。僕らの時は先輩が刺激的なものを作っていて、それに対して「俺だったらこうやるね!」という天狗がいっぱい居たんだと思うんですよ。その天狗が皆、監督になったんだと思います。だから我々のテンションと、その下の世代のテンションはちょっと違うなっていう感じはします。でもまた一回りしたら今石洋之くん(※3)とか、板垣伸くん(※4)とか個性的な監督も出ましたし、ほぼ同世代には『進撃の巨人』の監督の荒木哲郎くんたちもいる。世代論的な捉え方があるんですよね。そういう中で新しい才能が出てくるんじゃないかなと思いますし、そこに3D出身の人が混ざってきても全然おかしくない。3Dと2D、どちらか一方でなければ監督ができないなんてことはないというのは僕と京田さんが証明しているわけだから、あとは心折れずにキャリアを重ねてチャンスをモノにできるかですね。売れる売れないはもちろん大事だけど、やっぱり「この人が作ったから、こういう面白さが出たんだな」というのが対外的に評価されないと僕らは次の仕事に結びつかないと思うので。そういう個性を持った人間が出てくるかどうかじゃないかなと思います。

※3:今石洋之
アニメーション監督。代表作に『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』など。

※4:板垣伸
アニメーション監督。代表作に『BLACK CAT』、『てーきゅう』、『ベルセルク』など。

野口:ではまとめとして、水島さんとしてはCGアニメの未来には、どんな方向が見えますか?

水島:日本の3Dって、下手に一般層を狙って失敗したりとか、萌えを入れるにしてもガッチリ狙うのではなくてどこかぼんやりしたものになっているから、もっとエッジの効いた作品を作る方がいいと思うんです。もちろん、ファミリー層が見てくれるのは大事だけれども、やっぱり流行りを作るのはエッジの効いたことでブレイクしたものだと思います。そこから裾野を広げられるし、文化としてはそちらの方がいいんじゃないかなと。3Dってお金がかかるし、回収しなきゃいけないことを考えるとまだまだニッチなものなんじゃないかな。期待値も高まり、引く手あまたになっているけれども、人材も急には増えないし、やっぱり制作できる本数って限られるから、そんなに多くは出てこないんじゃないですかね。アプローチの仕方も、たとえば、子供向けであるなら、ルックの部分に労力を投入するのではなく、もっとモーションをキチっと突き詰めて、モデルが丁寧に動いて躍動感あるダンスを見せることの方が人の心を打つのではないかな。この事は、もしかするとどの作品でも言えることで、もう少しモデルの精度は下げても通用するんじゃないかなとは思いもしますね。

野口:それこそCGの技術品評会のような作品ではなく、コストも考えての面白い作品作りということですかね。

水島:それについて今、面白いことが起きているんですよ。『アイキャラ』というバラエティ番組(※5)に、小林咲彩(さやべえ)というMMD(※6)があるんですけど、そのダンスのモーションをでんぱ組inc.とかの振り付け師のYumiko先生が付けるんです。全部手付けでモーションを付けるから、指の仕草とか手を開くところの動きがめっちゃキマっているんですよ。そういう仕草とか、あとカメラに映るときにどこのタメをどう活かしてほしいか、振り付けする人間はちゃんと考えているわけです。MMDはアニメ作品で使っているモデルに比べたらずっと精度は低いけれども、作り手の愛情とか細かいところをすごく詰めているおかげで、躍動感があって綺麗なんです。だから、いろいろ動かしてみたりするといい絵が撮れたりするわけですよ。そこから先はセンス。アニメーターが演出に応えられなきゃ困るし、演出側も表現を明確に言語化できてそれを伝えるスキルを持ってないと難しい。そこまで指示をできる演出家が今、どれぐらいいるかは分かりませんが、少なくとも僕が自分でやってる作品に入ってくる演出家の中でそれができているのは、数えるほどしかいないですね。作画さんが良いから保っている感じです。

※5:アイキャラ
日本テレビで2016年1月から深夜に放送している「ミライ型キャラクター育成バラエティー」番組。水島も出演した。現在シーズン2が放送・配信中。http://www.ntv.co.jp/ichara/

※6:MMD
MikuMikuDance。樋口優が個人で開発した3DCGムービー制作フリーソフト。ファイル容量と動作が軽く、初心者でも扱うことが用意でボーカロイド動画投稿によく使われる。

野口:では最後に、『楽園追放2』、いつやりますか?

水島:出た(笑)。まずは虚淵くんと話して、そこからだよ!ホントに新作をまるまる作るのか、小説『楽園残響』をアニメ化する可能性もあるのか。

野口:あの後の地上の話がやりたいんですよね。

水島:それが決まっているなら、そこからどうするか、続編にするのか側面を変えて見せるのか、っていうのはまた考えないとね。どれくらいのキャラクターを登場させられる予算感なのか。同じくらいだったらまた砂漠と街になるわけだし。

野口:続編はもっと予算かけてやるしかないのかな、と。

水島:ホラ、これに乗っかるとあとで痛い目を見るのは自分なんだよ(笑)。まぁ乗っかるけどね!

SEIJI MIZUSHIMA
1966年生。東京都出身。アニメ撮影としてキャリアをスタートさせ、制作進行を経て演出家に。1998年『ジェネレイターガウル』初監督を務める。以降、『地球防衛企業ダイ・ガード』、『シャーマンキング』、『鋼の錬金術師』、『大江戸ロケット』、『機動戦士ガンダム00』、『はなまる幼稚園』、『UN-GO』、『夏色キセキ』、『うーさーのその日暮らし 夢幻編』、『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』など多数。
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 日詰明嘉
PHOTO : 弘田 充
LOCATION : 東映アニメーション

Backnumber