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INTERVIEW インタビュー

日本にフルCG アニメは根付くのか?
識者に聞く、和製3DCG アニメーションの未来

【第11回/2013年2月号】
樋口真嗣(映画監督/特技監督)

日本におけるフル 3DCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回は映画監督あるいは特技監督として、多彩な映像作品を発表し続けている樋口真嗣氏にご登場いただく。『ゴジラ』(1984)の怪獣造形で映画業界に入った樋口氏は、実写・特撮・VFX・アニメなどの幅広い分野で、画づくりの才能を発揮してきた。2012年には『巨神兵東京に現わる』、『のぼうの城』(共に監督)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(絵コンテなど)といった数多くの話題作に携わった樋口氏に、映像表現における 3DCG の可能性について語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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モデルに命を吹き込むには優秀なアニメーターが不可欠素と

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):2012年は数多くの 3DCG を使った劇場用アニメが公開された一方で、「特撮博物館(※1)」も開催され、3DCG と特撮が再注目された年だったと感じています。ただ樋口さんのように、3DCG と特撮、さらに実写も組み合わせて表現できる人は少ないですよね。特にミニチュアを使った特撮を操れる人は希有です。そんな樋口さんが 3DCG をどのように使ってきたのか、今日はお伺いしたいと思っています。


※1:特撮博物館
2012年7月10日(火)~10月8日(月・祝)に東京都現代美術館で開催された、「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」のこと。この会場で樋口氏が監督を務めた短編映画『巨神兵東京に現わる』が初公開された。その後、同作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開時にも同時上映されている。なお昨年11月下旬には国内巡回展の決定が発表され、2013年4月3日(水)~6月23日(日)の愛媛県美術館での『松山展』を皮切りに、各地での開催が予定されている

樋口真嗣(以下、樋口):確かに僕は 3DCG、ミニチュアの特撮、さらに実写も経験してきましたが、町場で全部を組み合わせて 1 本の映画をつくろうとすると 3 本分の予算がかかるじゃないですか(苦笑)。大泉の東映東京撮影所(※2)にはひと通りの機能が揃っていますから本当に羨ましい。ここ十年ぐらいずっと、『巨神兵東京に現わる』と『のぼうの城』の 特撮の現場 でも、特撮研究所にお世話になってるんです。


※2:東映東京撮影所
東京都練馬区大泉学園町にある撮影スタジオで、敷地内には特撮研究所や、東映デジタルセンター、東映アニメーションなどの関連企業も隣接している。

野口:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で同時上映された『巨神兵東京に現わる』は、「特撮博物館」で公開されたものとはちがいますよね? つくり直している箇所が数多くあったように思うのですが。

樋口:「特撮博物館」での上映じゃないので、禁止していた 3DCG を使いまくっています(笑)。巨神兵の羽は全て CG です。ほかにも庵野秀明さんが色々なリクエストをされましてね、一番強烈なのが爆発によって建物が崩れるカットで、建物の手前が殺風景だったので CG の電柱を追加しました。撮影段階ではピントがぼけてしまうという理由で配置しなかったのですが、後から CG の電柱を合成して、あえてミニチュア特撮に見えるオーバースケールな火花のCGエフェクトも加えています。目指した目標がフォトリアルではなく、ミニチュアワークの再現なので違和感はないはずです(笑)。

野口:3DCG と特撮が良い感じに融合して、ミニチュアっぽさが減っていました。ああいう特撮をつくれるチームは今や数少なくなりましたよね。

樋口:ミニチュア撮影ができるチームを抱えているのは、いまや特撮研究所と白組ですね。あとはその都度フリーランスのスタッフを集める事になるので、スタジオを借りる必要もあってコスト的に割高になりがちです。多くを望まなければ、CGの方がコストが抑え込めるんです。 あくまでも"多くを望まない"という大前提ありきなんですけどね。

野口:そんな 3DCG も、作画アニメから見ればコストが高くて面倒くさいから、作画で良いじゃないと思われがちな気がします(苦笑)。

樋口:3DCG ならではの独自性を追求して、作画アニメのキャラクターと真っ向から戦おうとすると、分が悪いように思います。作画アニメよりも魅力的なキャラクターを要求されるわけですから。2012年にヒットした『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』にしろ『おおかみこどもの雨と雪』にしろ、実は 3DCG を随所で使用しているわけじゃないですか。でもキャラクターだけは誰かの絵(作画)なのですよ。観客はその絵じゃないと心が動かない場合が多い。

野口:奇しくも、共に貞本義行さんの絵(キャラクターデザイン)ですね。

樋口:そこにヒントがあるように思いますね。もしかしたら、作画のキャラクターだけは守るべきなのかもしれない。そのキャラクターの背景が 3DCG だったとしても、違和感はないわけですよ。だったら、無理して一番不得意な部分に挑戦しなくても良いのではないかと思います。

野口:樋口さんがフル 3DCG アニメをほとんどつくっていない理由は、その辺にあるのでしょうか? 2002年に監督をなさった 『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』の 3DCG は、当時としては良くできていて印象に残っていますよ。

樋口:ありがとうございます。ただ、興行成績は良くなかったですけどね(苦笑)。あの時CGをやった中心スタッフはヱヴァンゲリヲンのCGに参加してますからね。

野口:非常に面白いエンターテインメント作品に仕上がっていたのですけどね。しかも CG 黎明期の勝算のない時代に、60分弱の長編をつくってのけた。僕は制作前に絵コンテを拝見していたのですが、こんな表現が本当にできるのかなって疑問に思っていたのです。でも樋口さんは東京中の CG プロダクション(※3)の人たちを引っ張って、完成までこぎ着けた。制作を開始する以前に、どの程度の勝算をもっていたのでしょうか?


※3:東京中のCGプロダクション
『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』のCG制作には、小学館ミュージック&デジタル エンタテインメント 、 オー・エル・エム デジタル 、 シンク 、 タツノコVCR 、 ポリゴン・ピクチュアズなど、当時東京に設けられていた多くの有力CGプロダクションが携わった。註:特撮研究所もCGを担当しました。


樋口:勝算なんてありませんでした(笑)。大した計画もないまま、協力してくれそうなプロダクションにカット単位でばらまいて、優秀な人たちのパワーに助けてもらったわけですよ。黎明期の無法地帯だからできたのだと思います。パイプラインの概念もない時代でしたから、画のクオリティは「誰が担当するか」で大きく左右されましたね。例えばポリゴン・ピクチュアズの場合、塩田周三さんや野口光一さん(当時ポリゴン・ピクチュアズ所属)が、面倒を見てくれた途端にレイアウトもアニメーションも凄く良くなった。結局のところ、個人のセンス、才能、芸にかかっていたわけです。

野口:今も状況は変わらないような気がしますね(苦笑)。

樋口:そうだと思います。僕に限らず、演出家は「こうしてほしい」というライン以前に、「こうあって当然」というラインがあるのです。そこに届く画をつくってもらえるかどうかが、当時は凄くストレスになっていました。同じ会社のなかでも、誰にお願いするかでクオリティは変わってくるじゃないですか。何人かの優秀な個人の力が僕を助けてくれたことを今も覚えていますね。

野口:作画アニメと同様に、3DCG アニメも個人の力量に左右される部分が大きいと。

樋口:3DCG を使い始めた当初は、同じモデルデータを使えば同じクオリティの画ができるはずだから、きっと管理しやすくなるだろうって多くの人が期待したと思うんですよ。でもモデルに命を吹き込むには、ちゃんとしたキャメラポジションとレンズの選択といった画面構成とアニメーションが必要なのです。たとえ 3DCG であっても、アニメーター個人の腕次第で、びっくりするくらい力のあるカットになる場合もあれば、そうではない場合もある。そこを平均化しつつ底上げするためには、CG アニメの制作でも作画監督のような役割の人を立てる必要があるのだろうと思います。

CGアニメを監督するならワークフローの理解が必須

野口:『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』の時代と比較すれば 3DCG の表現力は格段に進歩していますが、それでも CG アニメを監督することは難しいのでしょうか?

樋口:今のCG の制作現場って予想できないことが多い割にシステマチックになりすぎて、やっぱり難しいと思います。確かに、今や CG はどんな物語でも表現できるようになっていて、驚かされることは多いですけどね。例えば『トイ・ストーリー3』(2010)は、絵柄のいい悪いよりもキリスト教的な教訓を現代の物語にちゃんと置き換えて、感動的なストーリーに仕上げていました。僕は心が震えましたね。一方で『ホビット 思いがけない冒険』(2012)のゴラムのフェイシャル・アニメーションにもびっくりさせられました。表情の芝居を凄く細かく拾い上げて表現していた。

野口:作画アニメの監督からは「CG の場合、どうやってチェックすれば良いのかわからない」という意見を聞くことが多いですね。

樋口:演出する側にも訓練が必要だと思います。ワークフローをちゃんと理解して、先々で発覚する問題を予見できるようにならないと、結局後戻りする羽目になるわけですよ。ただし戻ろうとすると、もの凄く抵抗されますからね(苦笑)。特に物理シミュレーションを加えた後では、まずまちがいなくアニメーション工程に戻ってもらえない。

野口:3DCG には、3DCGの作法がありますからね(苦笑)。ローポリゴンの状態でアニメーションを付けて、クロス(衣服)やヘア(髪)のシミュレーションを加えて、ハイポリゴンでレンダリングしてみると全然ちがった印象に見える。だから直したいって思っても意外と戻れないものですよね。

樋口:こんな質感が加わるんだったら、もっと動きをダイナミックにすべきなのに小さくなっちゃってるとかね。加えてフェイシャルアニメーションを付ける前に、ボディアクションだけを先行して決定するというやり方もけっこうなストレスですね。僕としては表情に合わせて、ちょっとした首の仕草や髪の動きを付けたいわけですよ。フェイシャルとボディを並行してやってもらいたいのですが、CG アニメのワークフローではそうなっていない場合が多いのですよね。

野口:フェイシャルは時間がかかりますから、量産するなら先にボディのアニメーションを付けておいた方が効率が良い。しかしそうなると、監督に妥協を求めることになってしまう。

樋口:だから、もの凄く極端な言い方をすると、何でも良いと割りきれる監督じゃなければ務まらないとすら思います。

野口:何でも良いとは?

樋口:そこそこ良い感じにできていれば良しという判断で、確実に収入が見込める生産ラインを稼働させられる監督です。そしてリソースの 1 割くらいの範囲で実験をする。すべての作品がピクサーのように理想を追求できるわけではないですから。

野口:『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』を制作したときのように、会社を問わず優秀なアニメーターを指名していくと、結構なコストがかかりますしね。

樋口:そうです。しかもテイストが不揃いになるので、先ほど話したようにアニメの作画監督に近い役割を置いて揃える必要があります。現実には限られた条件のなかでつくらなければいけない場合が大半なので、工業製品と割りきった方が良いのではないかとすら思います。良いものをつくろうとすると、地獄に一歩踏み出すしかない(苦笑)。

野口:VFX の話になってしまいますが、 『日本沈没』(2006)では誰もが当初「こんなカットがつくれるのか?」って思ったそうですよね。でも樋口さんが「やるしかない、やってくれ」って皆をひっぱって、結局はできたわけじゃないですか。

樋口:僕がやってきたような方法は、つくり方が汚いんですよ(笑)。食い散らかしながら突き進んで、美味しいところだけを残していく。もの凄く無駄が多いと思うんです。最近の CG プロダクションは効率良く綺麗につくろうとしていて、パイプラインやワークフローを整備していますよね。そこに僕のやり方を当てはめると齟齬が起こってしまう(苦笑)。ただ、そんな厳格なパイプラインのなかにあっても、やるべきことはやりつつ、時々「これやっちゃえ!」って感じで楽しそうにつくっている人たちもいます。そういうつくり手であれば、相性は良いのだろうと思いますね。

野口:北米やイギリスの VFX スタジオと対等に戦おうとすると、しっかりコスト管理ができるパイプラインを構築する必要がありますからね。

樋口:CG 制作のコストはシーンとキャラクターの数で決まっちゃうんですよね。画面に映るものは全部モデリングしなければいけないので、数が多いほど予算が必要になります。

野口:作画アニメの場合は画の枚数で計算しますから、コスト計算の方法がまったくちがいますよね。

樋口:結果として、同じ舞台やキャラクターのデータを使い倒してもらった方が安上がりなのです。だけど、それでは格闘ゲームみたいに見えちゃうわけですよ。「何でずっとそこにいるんだよ? 壁ぶちぬいて隣の部屋に転がり込んじゃおうよっ!」て言うと、周囲の全員が「ええっ!?」って困惑する(笑)。ただ、そういう状況は実写映画でも起こります。そこでどうするかっていうと、同じ場所なんだけど、装飾やライティングを変えてちがう部屋に見せかけるとかね。

野口:それは良いヒントだと思います。ひょっとすると CG の人たちの工夫や経験値が足りないから、実写では可能なことができないだけなのかもしれない。

樋口:極端な話、背景は写真でも良いわけですよ。全部をつくり込む必要はなく、動く部分だけモデリングすれば良いと思います。

野口:後はデータベース(アセット)を活用し、ストックしてあるモデルを使い回してちがった印象に見せるとかね。アイデア次第では、短時間で別のシーンをつくれるかもしれない。

樋口:キャラクターもね、芸能プロダクションみたいなものを設立できないかなって思うのですよ。ゲームや映像用につくった CG キャラクターをライブラリにして、お金を払えば、会社を問わず使用できるようにする。そうすることで多くのキャラクターを出せるじゃないですか。最近の CG キャラクターは作品がちがっても似たような着地点に落ち着いているものが多いから、使い回しても違和感がないと思います。特に途中で死んじゃうような脇役とか、美男美女ではない三枚目のキャラクターはほかの作品に出演させても良いんじゃないでしょうか。毎回ゼロからつくるのは大変ですよ。

野口:顔だけを少し変えて別のキャラクターにして、それで背景を埋める場合もありますが、違和感が残っていて気持ち悪かったりもしますからね。

樋口:頑張ってキャラクターを増やしても、そういうギリギリの頑張りでつくっていることが観客に伝わってしまうのですよ。だったら手塚治虫さんのヒゲオヤジみたいに「アイツ、またあの役で出てるよ」って言われるキャラクターがいても良いと思います。実写の俳優の場合はそれが当たり前ですしね。

準備段階でテストを行い最良のつくり方を共有する

野口:モーションキャプチャは積極的に使用されていますか?

樋口:『プリキュア』シリーズの ED ダンスのように、モーションキャプチャしたデータを手付けで修正するやり方が理想的だと思います。あの動きは素晴らしいですよね。

野口:有難うございます。手付けでタメツメを加えて修正することは必須なのですが、キャプチャしたデータを使った方が短時間でつくれますね。

樋口:ただ、モーションキャプチャは収録後にデータのノイズを消しますよね。ノイズと一緒に、収録現場で良いなと感じた動きまで消している気がするのですよ。実は平均化してはいけない動きまで平均化している。せっかくのキレのあるダイナミックな動きが、ヌルッとした動きにされてしまうのは怖いです。でも「ノイズを消さないと、もっと酷いことになります」って言われてしまうのですけどね(苦笑)。

野口:確かに、尖った動きが丸くなってしまう場合はありますね。ちなみに、カメラの動きは誰が付けるのですか?

樋口:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の場合は、3DCG のアニメーターにお願いすることが多いですね。紙にレイアウトを描く作画のアニメーターだと、ああいった立体的に動くカメラワークは難しいのですよ。ただ、『Q』ではヴァーチャルカメラ(※4)を使って監督が撮影する場合もありましたよ。


※4:バーチャルカメラ
カメラ付属の液晶モニタにリアルタイム表示される 3DCG 映像を確認しながら、カメラワークを決定するシステム。通常の実写撮影に近い感覚で、カメラの動きやレンズの設定、フレーミング、演出のリズムなどを検証できる。CG のオペレーションに不慣れな監督や実写のカメラマンでも直感的に使用できるため、特にハリウッド映画のVFX制作で多用されている。


野口:庵野さん自らがカメラワークを付けたのですか?

樋口:『のぼうの城』の撮影時に、ACW Previsualization DEEPの山口 聡さんにバーチャルカメラを使ったプリビジュアライゼーション(※5)をつくっていただいたのですよ。そのとき、これは庵野さんが絶対にほしがるだろうなって思いまして、『ヱヴァQ』の制作で試しに導入しました。予想通り気に入られて、あちこちのカットで使いました。例えば何気ない廊下を歩くカットでも、3DCG 特有の無機質な動きに、もう一味加えたいんだと言われてね。


※5:プリビジュアライゼーション /Pre-Visualization
映像制作において実写撮影やCGの実制作に入る前段階で、仮素材を使って制作される映像のこと。スタッフやスポンサー間の最終イメージの共有、制作コストの明確化、撮影前のシミュレーション、複雑なCG合成の設計などに有効で制作を効率化できる。略して「プリビズ」や「プレビズ」と呼ばれることが多い


野口:庵野さんのような実写に興味のある監督ほど、ヴァーチャルカメラとの相性は良いでしょうね。ヴァーチャルカメラのように監督自身も操作できるツールであれば、比較的先読みは楽だと思うのですが、3DCG制作の大半は予測が難しいですよね。どこまで追求できるのか、やって良いのか、監督がさじ加減をまちがえると大変なことになってしまう。

樋口:ギリギリまでねばった挙げ句、公開に間に合わなかったら「どうするんだよっ!」 てなりますよね(苦笑)。

野口:大きなリスクだと思うのですが、樋口さんは巧くコントロールされているように感じます。実際、どうなさっているのですか?

樋口:結局のところ、いつも同じ会社にお願いしているので、僕のやり方や性格を熟知されている方が多いのですよ。既に信頼関係ができている人たちと一緒につくっているから、お互いコントロールがしやすいのだろうと思います。ただね、制作途中の CG を見せられて「どうですか?」って聞かれることが今でも時々あるんですよ。あれは不安になりますね。むしろ僕が試されているんじゃないかと思ってしまう(苦笑)。ある程度完成したものに対してなら意見を言えますが、途中段階で見せられても「ひき続き頑張ってください」としか言えない。何かに迷っていて「どっちが良いですかね?」っていう質問なら答えられますけどね。

野口:曖昧な動機で何となく聞かれても困ってしまうと。

樋口:そういう場合が結構あるのですよ。ただ、それは相手も不安なんだろうと思うので、最後まで一緒に仕事をして、信頼関係を築くことが大切だと思います。初めて一緒に仕事をする場合は、テストショットみたいなものを最初から最後まで通しでつくってみて、どういう進め方がお互いにとって最良なのかを確認した方が良いですね。

野口:それは CG に限らず言えることですね。

樋口:そう。例えば役者に対しても言えます。スクリーンテストなどで扮装してもらい、撮影して、お互いのやり方を見るのです。CG の話に戻すと、準備段階で何となくモデリングだけをしてみるのではなく、もう少し踏み込んで「このカットだけ最後までつくってみましょう」といったアプローチを早い段階でやっておけるといいんじゃないかと。

野口:たとえ予算が少ない場合でも、あえてテストをした方が良いと。

樋口:昔は CG の可能性が未知数で伸びしろが沢山あったから、無茶ができたのです。 「ここまでしかできない」っていうゴールを制作途中で設定し直すことができた。「そんな結果じゃお客さんに見せられないから、ここまでやってくれ」ってね。でも今は昔ほどの無茶はできない。スケジュールを立てた段階で、どんな画をつくるのか、皆でゴールを共有する必要があるのです。

野口:徐々にノウハウが溜まり技術も進歩して、どんな表現ができるのか、ある程度予測できるようになりましたからね。

樋口:僕が映画業界に入った頃と比べると、自分たちで映像をつくる人たちが格段に増えましたよね。例えば東京芸術大学 映像研究科の大学院生が海外の映画祭で受賞してキャリアを積むとかね。僕たちの時代は映画会社のスタッフになることからスタートしていましたが、それとはまったくちがうルートで独自に映像をつくっている。「自由にやってるな、若者め!」って思いますよ(苦笑)。今は映像を撮ってつないで音を入れるまでだったら、インハウスやデスクトップである程度のことまでできるようになって、昔ほどの手間やコストはかかりません。明らかに敷居が下がっていると思います。

野口:映画というフォーマットにこだわらない人が増えてきているように感じますね。相変わらず、映画として公開することのハードルは高いままですし。

樋口:映画の場合は、いっぱいお金を集めてつくり、いっぱいお金を回収しなきゃいけませんからね。だから映画で新しい表現に挑戦することは相変わらず難しいです。せっかく 3DCG アニメをつくるなら、セルルックではなく、絵の具で着彩したマンガの単行本の表紙みたいな画で動かしたいなって、いつも思うのですよ。でもなぜだか嫌がる人が多い(苦笑)。「やったことない表現だし、大変だから」ってね。3DCG の人たちにとっては無理難題らしく、立ち消えになってばかりです。

野口:コストがかかる一方で、集客できるかどうか未知数ですからね。

樋口:残念ながら映画において一番注目される要素は「誰が出演しているか」なのですよね。一般の方に映画監督ですって自己紹介してもね「誰が出てるんですか?」としか聞かれない(苦笑)。ルックはもちろん、ストーリーの話も聞いてもらえない。アニメの場合も同じ理由で、有名な役者さんが声優を担当する場合がありますよね。ハリウッドでもドリームワークスは名のある役者をよく使っている。

野口:あるいは人気マンガをアニメ化するとかね。集客を確実にしようとすると、そうなりがちではありますね。

樋口:僕としては、そういう表層的でない部分、もっと野心的な表現が経済的に評価される作品が増えれば良いなと思っています。

野口:今後、樋口さんがそんな作品で成功されることを期待しています。本日はありがとうございました。

樋口真嗣:Shinji Higuchi
1965年生まれ。東京都出身の映画監督・特技監督・映像作家・装幀家。高校卒業後、『ゴジラ』(1984)の怪獣造形に携わることで映画業界へ入る。1984年、ガイナックスへ参加し『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)にて助監督を務める。1992年、ゴンゾの設立に協力。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)で特技監督を務め、日本アカデミー賞特別賞受賞。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)、『破』(2009)、『Q』(2012)では絵コンテ、イメージボードなどで参加。主な監督作品は『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』(2002)、『ローレライ』(2005)、『日本沈没』(2006)、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008)、『巨神兵東京に現わる』(短編映画/2012年)、『のぼうの城』(2012年)など。
『のぼうの城』日本アカデミー賞・優秀作品賞/優秀監督賞受賞
『巨神兵東京に現れる』VFX-JAPANアワード2013・CM,博展映像部門受賞
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INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)http://cgworld.jp
PHOTO : 弘田 充
LOCATION : salo cafe

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