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INTERVIEW インタビュー

日本にフルCG アニメは根付くのか?
識者に聞く、和製3DCG アニメーションの未来

【第07回/2012年10月号】
石井朋彦(プロデューサー)

日本におけるフルCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回登場するのは、プロダクション・アイジー(以下、プロダクションI.G)の石井朋彦氏だ。1999 年にスタジオジブリへ入社した石井氏は、鈴木敏夫氏の下でプロデューサーとしての仕事のあり方を吸収した。2006 年にプロダクションI.Gへ移った後は、神山健治監督とタッグを組み『東のエデン』(2009)、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY3D』(2011)などの話題作を世に送り出した。今回は、最新作『009 RE:CYBORG』の公開を目前に控えた 8 月某日、石井氏が考える日本の 3DCG アニメーションの未来像を語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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ちゃんと商売になる“しくみ”をつくるのが僕の仕事

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):日本ではフル 3DCG アニメーションがアメリカほど普及していません。その理由を知りたいと思ったのが、このシリーズを始めたきっかけです。これまで6回にわたり、「なぜ日本では CG アニメーションが根付かないのか」を探ってきました。そこからわかってきたのは、第一に予算をかけすぎ、第二に技術に依存しすぎ、第三に各社が独自の体制でバラバラに制作しているから、というのが僕なりのここまでの総括です。そして今回からは、CG アニメを世に送り出している側、つまり石井さんのような方々が何を考えていらっしゃるのか、伺っていきたいと思っています。

石井朋彦(以下、石井):『009 RE:CYBORG』は、なぜ日本では 3DCG を使うことが厳しいのか、どこに可能性があるのかも含めて、体系立てて整理することから生まれた企画です。その辺のお話から始めた方が良いと思います。ただ、CG が上手くいくかどうかを議論する前に、日本でアニメを作る場合の2種類の典型的なパターンを整理しておきましょう。ひとつは“原作中心主義”です。

野口:ワンピース』や『ドラゴンボール』、『銀河鉄道999』など、うちが得意としてきたやり方ですね。

石井:そう。当然ながら、マンガはアニメになりやすいですよね。固定ファンが付いている人気マンガを TV シリーズや劇場長編に仕上げて、ファンを増やしていくというのが一番の王道パターンです。東映アニメーションは、このやり方で大成功なさっている。ディズニーなども同様で、基本的にはアメリカ型のビジネスモデルだと思います。そして、これとは別のパターンとして“監督中心主義”があります。

野口:宮崎 駿監督や、細田 守監督、石井さんがタッグを組んでいらっしゃる神山健治監督のように、監督主体で企画を具現化していくやり方と言えるのではないでしょうか。

石井:ええ。日本のセルアニメは、長年にわたり大量の作品が世に送り出されてきました。良い面と悪い面、両方あったと思いますが、そのおかげで作り手のすそ野が広がり、才能ある監督が多数登場してきました。ただ、宮崎監督の存在があまりにも大きかったので、「絵が描けなければ監督ではない」という、アニメーター中心の時代が80〜90年代にかけて続いてしまった。この価値観が、長らく日本のアニメ界でブレイクスルーが生まれなかった要因のひとつになったのではと感じています。

野口:宮崎監督のように、絵コンテやイメージボードが描けて、作画もできる。さらにマンガまで描けなければ監督は務まらないぞと(苦笑)。

石井:そうそう。でも実際には、そんなことができるのは限られた天才だけです。監督の基本的な仕事は、企画を起ち上げて、それがどの時代に合うかを考えて、物語をつくるために脚本家と組んで、最終的に劇場長編あるいはTVシリーズといったフォーマットに則した作品に仕上げることです。重要なのは演出の力であって、絵が上手いか下手かではない。アニメーター出身の監督で、凄くトリッキーな映像や魅力的なアニメーションをつくる方々は沢山いらっしゃいますが、必ずしもそれが観る側の好みに結び付かない時代が続きました。そうした中で、着々と企画やシナリオ、キャラクターを中心に据えてやってきたのが、東映アニメーションやぴえろでしょう。その後に現れた京都アニメーションやシャフト等もそうですね。アニメを好きな人がちゃんと喜ぶ作品をつくったプロダクションが、市場を広げていきました。

野口:一方でプロダクションI.G は監督中心主義を選択し、押井監督作品などを世に送り出してきました。

石井:そうですね。監督というのは育てられてバカバカ生まれるものではありません。その方の人となりが作品そのものになりますから。そして、監督がつくる作品をサポートする人間も当然必要になってくる。それが僕らプロデューサーの仕事なのだろうと思っています。

野口:今日では監督に加えて、プロデューサーという存在も注目されていると感じます。神山監督は確かに凄いですけど、神山監督と石井さんをセットでみている方々もいる。宮崎監督と鈴木敏夫さん、あるいは細田監督と齋藤優一郎さん(※1)のように、監督中心主義と言いながらも両者は対の関係にある。プロデューサーの果たす役割も大きいですよね。


※1:齋藤優一郎さん
スタジオ地図代表取締役/プロデューサーの齋藤優一郎氏のこと。『時をかける少女』(2006)から『おおかみこどもの雨と雪』(2012)まで、一連の細田監督作品のプロデュースを手がけている。

石井:ちゃんと商売になるしくみを構築する人が必要なんですよ。監督は日々現場に出てクリエイティブワークをコントロールしなければならない。そのための資金を集めて、世に出して、回収するのはプロデューサーの仕事です。鈴木さんは天才的なひらめき型のプロデューサーだと思われがちですが、実は非常に緻密な戦略でビジネスをしている方です。本来プロデューサーがやるべきことを、アニメ界ではトップを走って、しかも監督中心主義でやってきた。この点において、世界的にも非常に珍しい業界なのではないでしょうか。

野口:石井さんはプロダクションI.G に移られる前は、スタジオジブリにいらっしゃいましたよね。どんな仕事をなさっていたんですか?

石井:鈴木さんの仕事のサポートですね。7〜8年間、365日ずっと付いてまわって、鈴木さんがなさっていることを一緒にやってきました。鈴木さんのノウハウはとても勉強になりましたね。

野口:庵野秀明監督も細田監督も一時期はスタジオジブリにいて、はたと気が付くと存在感のある作り手になっている。鈴木さんという偉大なプロデューサーの仕事を間近でみてきたことが大きな影響を与えているのかもしれません。

日本のCG の未来は“セルルック”にある!

野口:では続いて、10月27日(土)全国公開となる映画『009 RE:CYBORG』のプロデュースについてお伺いします。まず公開スクリーン数はどのくらいですか?

石井:64です。その約5割が関東圏で、大阪、京都、兵庫といった関西圏が2割、他は北海道、宮城、新潟、愛知、広島、福岡など、全て人口比で決めました。

野口:意外と小規模なのですね。

石井:幸いなことにオファーはその何倍もありました。でも僕らはまだ、スタジオジブリや細田監督のような大ヒットを出していません。自分たちの身の丈に合った興行規模を考えた結果、今回はこれがベストだと考えました。大きな宣伝費をかけて、200〜300スクリーンで上映すれば当然告知と面は増えますけど、その分お金も出ていくわけです。全国津々浦々で上映したものの、実際に劇場へ足を運んでみると大ヒットしているはずの作品がガラガラだったりするじゃないですか。公開数を広げるほど、空席率も上がるようでは、劇場のみなさんに喜んでいただけない。劇場が超満員になってはじめて、ヒットだと言えると思うのです。今や150スクリーン規模でも興行収入が1億円に満たない作品が多くなってしまいましたが、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(2011)はわずか7スクリーンにもかかわらず、2億2千万くらいの興収がありました。

野口:今回は、S3D(立体視)の割合はどのくらいですか?

石井:『009 RE:CYBORG』のS3Dスクリーンは、全体の8割位を想定しています。ご存知の通り、これまで日本では S3D 作品があまりヒットしてきていません。そのことに対する責任が僕らにあるわけじゃないですけど(苦笑)、今回もまた駄目だったね、という結果にはしたくない。スクリーンアベレージ、集めた資金の回収、世の中に大きなインパクトを与える、これら3つを最優先に考えた結果、64スクリーンという規模が一番妥当であるという結論に達したわけです。

野口:その一方で、今回はあえてフラットなセルルックの表現に仕上げていますよね。どういうねらいがあったのでしょうか?

石井:ちょうど『009 RE:CYBORG』の企画を起ち上げた日は、『アバター』(2009)の公開初日でもありました。劇場に足を運んだ神山監督と僕は、『アバター』を観た影響もあり、ちゃんとしたリアルな人間を 3DCG で表現するのは不可能であると早々に判断したのです。

野口:『アバター』のインパクトはそれほどまでに大きかったということでしょうか?

石井:ジェームズ・キャメロン監督は、企画段階から 3DCG を使う意味合いを考えに考え抜いたんだろうなって、神山監督と2人で議論を重ねました。日本人って、昔から方法論のために手段を選ぶのではなく、手段が先行して方法論が後から付いて来るみたいな気質だと思うのです。例えば建物を建てるとします。まずは完成形を想像しながら設計図を作成するのがセオリーですよね? でも、日本の昔ながらの宮大工さんはいきなり柱から作っていくじゃないですか。同じように日本人が 3DCG アニメーションを制作する場合、ビジネススキームではなく制作ツールや表現手法を突き詰めるところから企画を起ち上げる場合が多かったように感じてならないのです。

野口:つまり、キャメロン監督は 3DCG 表現を突き詰めるのでなく、3DCG を使う意味合いを考え抜いたと?

石井:キャメロン監督も、生身の人間を 3DCG で完全に再現することは、現時点では不可能であると考えたと思うのです。それゆえに、まずナヴィ族というキャラクターの肌を青色にして、身長を人間よりも大きくした。さらには目や鼻も大きくしてデフォルメ化も図った。加えて最大の発明は、人間がアバターを介してナヴィになるという物語設定を考案したことです。

野口:観る側の感情移入を容易にしたということですね。

石井:そうです。冒頭に主人公のジェイクがアバターに乗り移って、パニックになって表に飛び出すシーンがありますよね。アバターと普通の人間がトレーニングしたり、花を摘んでいる中をジェイクが走っていく。観る側は順を追って、こういう宇宙人がいるんだ、こういう宇宙人が人間と一緒に共存できる世界なんだ、ということを了解していくわけです。さらに終盤では、本来人間であるジェイクがアバターを介してナヴィになり、ナヴィの女性に恋をして人間から襲われるという物語の大転換が起こる。観る側は、いつの間にか自分がナヴィ、つまり CG のキャラクターであることを受け容れてしまうのです。世界観の設定、キャラクター造形、3DCG 表現の限界、さらにクライマックスにおける感情の流れまで全部計算してキャメロン監督はつくっているのだと感心しました。『アバター』のポスターを最初に見た瞬間は、誰もが「キモッ!」って思ったはずなんですよ(笑)。でも、公開後には評判が一転しました。日本で CG が勝利するポイントもそうしたところにあるはずだと考えています。

野口:素晴らしい分析です。その結果、『009 RE:CYBORG』では日本の市場で最も勝算があるであろうフラットな表現を選択されたというわけですね。

石井:『009 RE:CYBORG』の表現を模索する中で、解決の糸口になりそうだと思ったのがフィギュア(立体造型)でした。デフォルメしたキャラクターを 3DCG で立体化すれば、観る側は「これはフィギュアなんだ」と了解し、感情移入してくれるんじゃないかなと。しかしそれだけでは、所詮技術中心主義でアニメーションをつくるという状況に変わりはありません。やはり日本では、日本人が好きな、漫画を源流とするセルアニメーションのキャラクターで作るべきなのではないかと。これを 3DCG で表現できるスタジオを探して、最終的に行き着いたのがサンジゲンでした。

野口:セルルックの 3DCG 表現において、一番進んでいるのがサンジゲンといっても過言ではありませんからね。

石井:日本の 3DCG アニメーションの未来はセルルックにあると、僕は確信しています。日本人はリミテッドのセルアニメが好きですし、サンジゲンはセルアニメと拮抗できるスケジュールと相場、つまり“適正価格”で明らかに 2D と比べても見劣りしない、3DCGの特性を活かした素晴らしい結果を出し始め、今も進化を続けている。ビジネス的にも表現的にも、予算的にもベストの選択だと考えています。ゆえに、松浦裕暁代表率いるサンジゲンのスタッフの皆さんの仕事を、もっともっと広く世に知らしめることが、僕自身の役目だと考えています。

マンガとアニメこそが、僕らの探す“青い鳥”

野口:実はセルルックの 3DCG を追求しすぎると、携帯電話のようなガラパゴス化を引き起こすのではないかと心配していたりもします。一般的な VFX やフル CG アニメーションと異なり、海外ではセルルックの 3DCG はほとんど作られていません。海外に仕事を委託できないから、国内だけでやらなくちゃいけない。そうした実状を踏まえて、今後ピクサーのようなルックに挑戦するビジョンはあるのでしょうか?

石井:日本人は漠然とアメリカは凄い、アメリカは先行していると思いがちですが、僕はセルルックの CG アニメに未来がある、そしてそれをリードしているのは日本勢だと思っています。今の世の中には、大きく分けて3つの 3DCG アニメーション表現があります。ひとつはピクサー型。キャラクターがデフォルメされていて、舞台を限定している。「これはオモチャの世界なんだ」「宇宙なんだ」といった暗黙の了解の中で面白い話を紡いでいくタイプ。2つ目はリアルな 3DCG、例えば『ファイナルファンタジー』(2001)や『ポーラー・エクスプレス』(2004)、最近では『タンタンの冒険 / ユニコーン号の秘密』(2011)などもこの分類に当てはまると思います。そして3つ目がセルルック、いわゆるトゥーンシェーダによる表現ですね。

野口:その分け方だと、白組の『friends もののけ島のナキ』(2011)はピクサー型になるのでしょうか?

石井:そうですね。白組が目指している方向性は非常に正しいと感じます。CGであるか否かに関わらず、面白ければ観てもらえることは証明されました。おそらくこれからも、成功例は増えていくと思います。重要なのは、“面白いかどうか”なんですよね。僕の娘は『やさいのようせい』を夢中で観ているのですが、当然 CG で作られていることは知りません。最近の『プリキュア』シリーズでは本編が2Dの作画である一方、エンディングはフル CG アニメーションといったことは大した問題ではなく、キャラクターが魅力的でシナリオが面白ければお客さんは喜んでくれるはずなのです。そうした意味において、2つ目のグループ「リアル系」は、実写でやればいいんじゃないかという大きなハードルがあります。加えて、これも神山監督とよく議論するんですけど、いわゆる洋画的なエンターテインメント作品の中で日本人のキャラクターが活躍しても、日本人は嬉しくないと思うのです。

野口:確かに、『バトルシップ』(2012)に浅野忠信が準主役級の大きな役所で出演していましたが、それほど話題にならなかった気がします。日本人は西洋人の方が格好良いと思いがちなのでしょうか?

石井:日本人が戦後植え付けられたコンプレックスではないかと。僕は日本人だって格好良いと思うのですけどね。極端な例えですが、日本人が洋画を鑑賞する場合、自分をブラッド・ピットだと思いながら、つまり主役に自己を投影して観ている気がしてなりません(笑)。同様にマンガやアニメのキャラクターも、髪が赤かろうが青かろうが、目が大きかろうが、日本人だと思って観ているわけです。『ドラゴンボール』の孫悟空も日本人だと思って作品を観ますよね? これは日本のマンガやアニメ表現の優れたところだと思います。マンガやアニメであれば、文芸作品だろうが、ラブストーリーだろうが、戦争ドラマだろうが、日本人はエンターテインメント大作をつくることができる。それを 3DCG でどう表現するのかをもっと掘り下げて考えないといけません。

野口:日本の場合、必然的に選択肢として残るのは、ピクサー型かセルルックの二択になるのかもしれませんね。

石井:舞台が現実世界で主人公を人間にするなら、セルルックがベストだと思います。一方で、子供を含めた、いわゆるファミリー向けの作品であれば、非常に限定された世界の中で真っ直ぐな主題を描くピクサー型が良いと、僕は思います。そして『009 RE:CYBORG』では、神山監督の作家性や趣向としても、スタッフの適性にしても子供向けではないので、セルルックに未来があると判断しました。

野口:本当は、日本の現場でもピクサーみたいな作品をつくりたい方々が沢山いるんじゃないかと思うのですが、企画段階から入って作り込んでいかないと難しいですよね。マンガやアニメのキャラクターをセルルックの CG で表現した方が早い。

石井:例えばハリウッドでは、せっかくデフォルメして豊かな表現の可能性がある世界をつくったのに、水を表現する上では流体シミュレーションを用いているんですよ。何十億円もかけて流体の物理シミュレーションを繰り返している。手付けのセルルックアニメーションであれば、もちろんアニメーターの才能と技術の賜物ですが、1人のスタッフが、1~2週で作り上げることができる。まずはインフラを構築し、そこに莫大なお金を流し込んで産業全体が生き残っていくという、アメリカ特有の事情も影響していると思います。そして 3DCGの場合も例外ではなくそうしたインフラをフル活用することで、巨額のマネーが動いているわけです。でも、日本はそうではない。

野口:『メリダとおそろしの森』(2012)でも、コケの表現において非常に高度な 3DCG 技術を投入していました。あくまでも仮説ですがアメリカ人の場合、背景美術に関してはセルの時代からリアルに表現したかったのではないかという気がします。でもキャラクターにはそうした写実性を求めないので、あのような表現になっているのではないかと。

石井:一方、日本人の場合は省略化されていればいるほど、その合間に何かを観ていますよね。1秒24コマではなく、12コマ(2コマ打ち)や8コマ(3コマ打ち)で、3DCG モデルとテクスチャの変形によって手描きのような表現を生み出してしまう。そして忘れてはいけないのが、日本のアニメ界が誇る背景美術です。ピクサーが30人のスタッフを投入して半年がかりで作成するような巨大な街並みの俯瞰を、日本の背景美術スタッフは1日で描いてしまう。

野口:しかも非常に安い(笑)。

石井:以前、日本の相場をピクサーの人たちに話したら目を丸くしていました(苦笑)。3DCGの世界を集中して研究してみて、神山監督と至った結論があります。「3DCG をやっている多くの人が、ここにはない何かをつくろうとしている」って。でも“ここにはない何か”なんてお客さんは観たいのでしょうか。

野口:ここに凄いものがあるのに、果てなき夢をみたがる人たちが多いと?

石井:マンガとアニメこそが、僕らの探す“青い鳥”なのです。「それを真似した方が絶対上手くいくぜ」ってね。手前味噌ですが、日本にはマンガやアニメというすごい文化がある。それを 3DCG で表現したのが『009 RE:CYBORG』であり、これこそが日本の誇るCG の姿だと思っています。さらには、若い人がアニメ業界に入ってくるにあたって、3DCG は最適なツールでもあるんですよ。

野口:作画のアニメーターを目指すよりも敷居が低いということでしょうか?

石井:語弊があるかもしれませんけど、その通りです。作画のアニメーターになるには4段階のハードルがあります。第1に、当たり前ですけど絵が上手くなければいけない。第2に、オリジナルのキャラクターではなく、他の人が描いた原画の真似をしなくはいけない。第3に、それを動かさなくてはいけない。そして第4に、動画経験も必要なので、綺麗な線を描けなければいけません。いわば4重の才能が必要であり、しかもこれらを習得してようやく売れっ子になれるのは30代中盤なんですよ。それを10年も続けると、今度は老眼に悩まされることになってしまう(苦笑)。つまり下積み10年、現役10年という世界です。ところが 3DCG なら、動かすことさえ上手ければ作画のアニメーターと同じ仕事ができてしまう。若い方が業界に入ってくる間口を一気に広げる可能性があるのではないでしょうか。

野口:動かすことに特化すれば良いわけですから、より多くの才能が眠っているはずです。

石井:そして 3DCG に移行してからも、ベテランの作画のアニメーターは大活躍しているんですよ。キャラクター設定、小物設定、美術設定、レイアウト加筆など。若い方の中で無から有を創り出せる人はそれほどいませんが、ベテランの中には多くいるわけです。そういう方々は、40〜50代になって枚数が描けなくなっても、変わらずに画が上手いんですよ。CG というツールに出会うことで、60〜70代になっても変わらず現役としてアニメーション制作に携われる道が開けるような気がしてなりません。

野口:なるほど。一連のお話を通して石井さんは 3DCG の技術や表現だけでなく、ビジネス面での成功や後進の育成も考えながら戦略を練っておられることがわかり、とても共感しました。

石井:映画はやはり、キャラクターとシナリオですからね。表現手法ありきではないと思います。キャラクターとシナリオを、3DCG を使ってどう表現するのかというところから考え始めないと。その意味では、僕自身も勉強中なのでピクサーやドリームワークスのプロデューサーや監督が、企画を起ち上げる際にどういったことを議論しているのか知りたいですね。CGWORLD にそんな連載があれば、せっかく技術は持っているのに、それをどう表現して良いのかわからない日本の 3DCG 制作者がブレイクするきっかけになるかもしれませんよ。

石井朋彦:Tomohiko Ishii
1977 年生まれ。東京都出身のプロデューサー。1999 年にスタジオジブリへ入社し、鈴木敏夫氏の下でプロデュースを学ぶ。『千と千尋の神隠し』(2001)、『猫の恩返し』(2002)、『ハウルの動く城』(2004)でプロデューサー補、『ゲド戦記』(2006)で制作を担当。2006 年にプロダクションI.G へ移り、押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)、神山健治監督の TVシリーズ&劇場版『東のエデン』(2009)、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(2011)などをプロデュース。最新作の『009 RE:CYBORG』は、2012 年10月27日(土)より全国公開。
http://www.production-ig.co.jp/
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)http://cgworld.jp
PHOTO : 弘田 充
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