デビモンの強大な力でファイル島はバラバラに引き裂かれた。そして子供たちもそれぞれ別の小島に飛ばされ、離れ離れに……。ムゲンマウンテンの山頂からその様子を眺め、不吉な笑みを浮かべるデビモン。 「選ばれし子供といっても、一人ひとりの力など知れたもの……フッ! 一人残らず血祭りにあげてやるぞ」 子供たちを確実に抹殺すべく、デビモンは頭上に浮かべた7つの黒い歯車を送り出した。 一方その頃、仲間と離れ離れになった太一は真っ白な雪が降り積もる厳寒の島にいた。 「ねえ太一、この島どんどん離れていくけど、このままどこへ行っちゃうのかな?」 「俺に聞くなよ」 遠ざかるムゲンマウンテンを不安げに眺めるアグモンにそう答えながら、太一の頭の中ではデビモンが口にした「海の向こうの世界」という言葉が甦っていた。 「海の向こうの世界……か……」 行く手に広がる海を眺める太一。しかし考えをまとめるヒマも与えずに、突然一匹のデジモンが襲いかかってくる。 「絶対零度パーンチ!」 繰り出されたパンチに触れたものがカチカチに凍りつく。黒い歯車に操られたユキダルモンだ。頼みのアグモンもお腹が空いて進化できず、追いつめられていく太一。 「そうだ、太一! 僕を投げて!」 太一に提案するアグモン。ユキダルモンの背中に飛びついて黒い歯車を外そうとする作戦だ。 「よし! 丸まれ、アグモン!」 言われたままにボールのように丸くなるアグモンに助走をつけて突進する太一。 「エースストライカーのミラクルシュート、見せてやるぜ!」 ユキダルモンめがけてアグモンをシュート! 悲鳴を上げながら一直線に飛んだアグモンは見事にユキダルモンの背中に張りつき、黒い歯車に至近距離からベビーフレイムを叩き込んだ。 「あれ~、なんで魔黷トたのかな~、ボク~」 黒い歯車から解放されて正気に戻ったユキダルモンは、思いがけない情報を太一に伝えた。 「あ~、そういえば、キミとよく似た子供とガブモンが、あっちの島に落っこちたの見たけど~」 「ヤマトだ!」 すぐ近くにヤマトがいることを知った太一は、ユキダルモンの助けを借りてヤマトがいるという島へ向かったのだった。 「タケルーっ! おーい! タケルーっ! どこにいるんだ、タケル……ゲホゲホ……!」 猛吹雪の中に、咳込みながらタケルを呼ぶヤマトの声が響く。太一がユキダルモンと出会っていた頃、ヤマトは吹雪が吹き荒れる山奥をガブモンと共に歩き続けていた。 「タケルーっ! 返事してくれーっ! タケルーっ!」 襲いかかる寒気に咳込みうずくまりながらも、タケルを捜し続けるヤマト。そんなヤマトをガブモンが必死に引き止める。 「放せ! タケルが=」 「オレが行くから!」 限界に近づく体でなおもタケルを捜そうとするヤマトにガブモンが叫ぶ。 「代わりにオレがタケルを探しに行ってくる! だから、ヤマトはここでおとなしく待ってろよ……」 途中で見つけた洞窟にヤマトを残し、ガブモンは自ら吹雪の中に飛び出した。しかしいくら捜してもタケルの姿はない。しかも帰ってきたガブモンが見たものは……。 「ヤマト!」 それは雪原の中に倒れ、半ば雪に埋もれたヤマトの姿だった。ガブモンがいない間に、ヤマトもまたタケルを捜しに洞窟の外に出ていたのだ。 「このままじゃ凍え死んじゃうよ……」 冷え切ったヤマトの体を見つめるガブモン。ヤマトを助けるために覚悟を決めたガブモンは、決して脱ぐことのなかった毛皮を思い切って脱ぎ捨てた。 翌朝、目覚めたヤマトが見たのは、体にかけられた毛皮と寄り添うように眠るガブモンの姿だった。 「ガブモン……ずっと俺を温めてくれてたのか……」 「へへへ……もう具合、大丈夫? ゲホゲホ!」 答えるガブモンの口から咳がもれる。 「ガブモン……お前、俺の代わりに風邪ひいたんだな、ごめんな……でも、おかげですっかり良くなったよ、ありがとう!」 危機を乗り越えたことでさらに絆を深めたヤマトとガブモン。そこに遠くから太一の声が聞こえてくる。 「おーいっ! ヤマトーっ!」 「よく、ここが分かったな」 駆けてくる太一とガッチリ握手を交わすヤマト。しかしこの時二人はまだ知らなかった。喜ぶべきはずの再会が、二人の間に思わぬ亀裂を呼んでしまうことを……。 「へえ、デジモンも風邪引くのか」 「なんだよ冗談じゃないか、なにマジになってんだ?」 太一の何気ない言葉がヤマトの心をイラだたせる。楽観的な太一と焦るヤマトの心情は最初から大きくズレていた。さらに決定的だったのは、無理をしてでも仲間を探そうとするヤマトに対する太一の次の一言だった。 「みんななら大丈夫だよ、バラバラになっても、きっとみんな、うまくやってるさ! それより、この島がどこに向かって動いてるか、気にならないか?」 「それよりってなんだよ!」 思わず太一の胸ぐらをつかむヤマト。 「みんなを探すことより大事なことなんてあるのかよ! 海の向こうの世界だと! そんなとこ、お前一人で勝手に行けっ! 俺は、たとえ泳いで死んだって、みんなを助けに行くんだっ!」 「待てよ、ヤマト! 海の向こうの世界に行けば、みんなと会える方法だって見つかるかも知れないだろっ! お前の気持ちも分かるけど……」 「お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるかーっ!」 怒りを爆発させて太一に殴りかかるヤマト。 「なんだと~っ! このわからずや!」 太一も止めに入るガブモンたちを跳ねのけてヤマトを殴り返し、二人はもつれながら崖っぷちへ。馬乗りになってヤマトを殴りつれようとした太一はしかし、途中でその拳を止めた。ヤマトの頬が涙で濡れていたのだ。 「タケルは……タケルは一人じゃなにもできないんだよ!」 「ヤマト……」 ヤマトの涙に言葉を失う太一。と、その時、突然二人のいる崖が崩れた! とっさに木の枝につかまり、ヤマトの手をつかむ太一。 「た、太一~っ!」 「し……死んだって、この手は放さねえ!」 必死でヤマトを支える太一。しかしそんな二人に、黒い歯車に操られたモジャモンが無情にも襲いかかる! モジャモンの攻撃にアグモンとガブモンもろとも崖から転落する太一たち。あわや地面に叩きつけられる寸前、彼らを救ったのは風邪を引いたガブモンのために薬草を採りに行っていたユキダルモンだった! 薬草と食べ物で元気を取り戻して進化したグレイモンとガルルモンは、ユキダルモンと協力してモジャモンを操る黒い歯車を破壊したのだった。 戦いが済んだ後も、険しい撫薰ウないガルルモン。その目には、崩れた崖の中から現れた大小様々な黒い歯車が映っていた。 「この歯車が、ヤマトとタケルを離れ離れにしたんだ! フォックスファィヤーッ!」 なおも規則正しく回転して島を動かし続ける黒い歯車に、怒りと共にフォックスファィヤーをぶつけるガルルモン。その気持ちが通じたかのように、黒い歯車は逆回りに回転を始めた。 「お、おい! この島、戻ってるぞ!」 「どうやら俺たち、ケンカしてる場合じゃなさそうだな」 握手を求めて手を差し出す太一。ヤマトも無言でその手を握り返した。 「タケルも……きっと頑張ってるよ!」 「ああ……あいつは俺の弟だからな」 握手をしたまま笑いあう太一とヤマト。その様子をアグモンとカブモンが嬉しそうに見守る。一同を乗せた島は、朝日を浴びながらゆっくりとムゲンマウンテンに近づいていた……。
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