「やだぁ、ここどこ……?」 不安げな顔であたりを見回すミミ。デビモンに飛ばされたミミとパルモンは人気のない鬱蒼としたジャングルの中にいた。 「あたしたちこれからどうなるの?」 「わからないけど、とにかく誰かいないか捜そうよ」 パルモンに促されて歩き出してはみたものの、仲間はちっとも見つからない。かわりにバナナを見つけて喜んでみれば、むいてもむいても皮ばっかり。 「ああん! もう! こんなんばっかり!」 嫌気がさしてペタリと地面に座り込んだミミをさらに不幸が襲う。頭の上から振ってきた……ウンチ! 「きゃあ! きゃあ! きゃあ!」 逃げ惑うミミとパルモン。そんなミミたちを見て二匹のデジモンが不敵に笑う。 「いやだったら荷物を全部置いていきな」 「置いていきな」 コンピューターデータの残りカスの集まり、『輝ける黄金ウンチ』のスカモンと、その相棒で悪知恵の働くネズミ型デジモンのチューモンの最低追いはぎコンビだ。 「あんたに渡すくらいだったらドブに捨てた方がましよっ」 強がってみたものの、ウンチの雨に逃げ回るしかないミミ。もう少しで荷物を奪われそうになったその時、ミミのデジバイスが光を放った。 「ああ、なんだか、心がさわやか」 「とってもさわやか」 デジバイスの光に心を洗われて、スカモンとチューモンはいきなりいいデジモンになってしまった。しかもスカモンたちは遺跡の方に落ちる人間とテントモンを見ているというのだ。 「ほんと! テントモンがいるってことは光子郎君もいるはずだわ!」 思わぬ情報を得たミミはスカモンたちの案内で遺跡に向かう。しかし遺跡は今はデビモンの力で別の島に別れてしまっていた。 「ここを飛び越して行かなくちゃいけないわけ?」 「チョー怖い」 断崖に立ちすくむミミたちにスカモンとチューモンが不意に笑顔で迫る。 「教えて上げたお礼に、僕たちとデートしない?」 思わず顔を見合わせるミミとパルモン。 「いやあぁぁぁぁああっ!」 パルモンのポイズンアイビーを対岸の木の枝に絡ませ、ミミたちは悲鳴を残してとなりの島に飛び移った。 「いたわ! 光子郎君!」 ようやくたどりついた遺跡の入口近くで光子郎を見つけ、笑顔で駆け寄るミミ。しかし大喜びのミミに対して肝心の光子郎の反応はどこか素っ気ない。 「ああ、ミミさん」 「ああ! 会えてよかったっ! 他のみんなはどこ!?」 「いえ、分かりません……」 ちょっと振り向いてそれだけ答えたかと思うと、すぐにノートパソコンの画面に顔を向けてしまう。遺跡の中で島を動かす黒い歯車と、以前アンドロモンの工業都市で見た謎の象形文字を見つけた光子郎は、象形文字を解読して遺跡の謎を解くことに夢中になってしまっていたのだ。 「そんなのどうでもいいじゃない!」 「わてもさっきから、みんなを捜しに行きまひょいうてるんですけどな」 「ほらここに文字みたいなものがあるでしょう? これが何かを解く鍵なんですよ」 他の仲間を捜そうとするミミの意見も聞かずに夢中でパソコンにデータを打ち込む光子郎に、ミミはガックリと肩を落とした。 パソコンに集中する光子郎のとなりにぐったりと疲れきった様子で座り込むミミ。 「いつまでやってるの?」 「それがわかったら、何か良いことあるの?」 「ねえ、それが分かったらおうちに帰れるっていうの?」 「ねえってば! いつになったら終わるのよ?」 いくら話しかけても返ってくるのは生返事ばかり。 「光子郎のぶぁかぁ!」 自分を無視してパソコンの画面だけを見つめ続ける光子郎に、ついにミミの中で何かがプチンと音を立てて切れた。 「あたしお腹空いた! のども渇いた! みんなにも会いたい! このままここにいるのはもういやっ! もういやーっ! いやだっ!」 不満を爆発させ、顔をくしゃくしゃにして泣き出すミミ。 「パルモンもいやだーっ!」 ミミにつられてパルモンまでが泣き出してしまう。 「もういい、光子郎君なんかもう当てにしない」 光子郎が詰め寄るパルモンに気を取られているスキに、ミミはみんなを置いてひとりで走り去った。 「あ、ミミはん!」 テントモンが慌ててその後を追う。パルモンをなだめている間に取り残された光子郎が気づいた時には、ミミたちの姿はどこにも見えなくなってしまっていた。 「まさか……この遺跡の中……?」 光子郎の顔がサッと青ざめる。データを解析した結果、遺跡の中は迷い込んだら二度と出られない複雑な迷路になっていることが分かったのだ! 「もぉうっ! これもみんな光子郎君が悪いのよおっ!」 光子郎の心配どおり迷路に迷い込んでいたミミは、光子郎への不満をテントモンにぶつけていた。 「ったく! 人のこと無視してアッタマ来ちゃう!」 「いや、確かに光子郎はんし人付き合いは不器用やけど、そんな悪い人やありまへん」 「でも実際あたしのことなんか全然アウトオブ眼中じゃないの!」 「何かに熱中すると他のことに気がいかなくなるだけ……、ほんまはええ奴思います」 必死に光子郎をかばうテントモン。そこに光子郎の声が聞こえてくる。 「ミミさん! 聞こえますか? 僕がナビゲートするから、言う通りに歩いて行って下さい」 パソコンのマイクを通してミミに語りかける光子郎。ミミとテントモンを助け出すために、光子郎はずっと遺跡のデータの解析を続けていたのだ。 「な? わてのゆうた通りでっしゃろ?」 ニコニコと満足そうなテントモン。こうして迷路脱出のためにミミと光子郎の二人三脚が始まった。 「そこを右に曲がって下さい」 「次の角を左、でも、曲がってすぐの所に落とし穴があるので気をつけて」 光子郎の的確な指示に従い順調に迷路を抜けていくミミ。しかしそんなミミたちに背後から忍び寄る不気味な影があった。黒い歯車に操られた人馬一体のデジモン、ケンタルモンだ! 襲いかかるケンタルモンから必死で逃げるミミとテントモン。しかし光子郎に指示されて向かったその先は……。 「何よぉ! 行き止まりよぉ!」 ミミたちの行く手をふさぐ壁。そこは逃げ道のない袋小路だった。 「光子郎はん? 光子郎はん!?」 頼みの光子郎もなぜかテントモンの呼び掛けに応えてくれない。パートナーが入れ替わっているために進化することもできず、追いつめられていくミミとテントモン。ケンタルモンのハンティングキャノンが容赦なく狙いを定める。絶体絶命のその瞬間、突然ミミたちの背後でガラガラと壁が崩れた! 「ミミさん! こっちです!」 崩れた壁の向こうから現れる光子郎とパルモン。ミミたちの進路を予想して先回りしていたのだ。崩れた壁から遺跡の外に脱出するミミたち。ケンタルモンもしつこく追いかけてくるが、進化したカブテリモンとトゲモンのタッグ攻撃がケンタルモンを操る黒い車を見事に打ち砕いた。 黒い歯車から解放されたケンタルモンはミミと光子郎のデジバイスについて驚くべき事実を述べた。それらは『聖なるデバイス』と呼ばれるもので、それを持つ者はこの世界に光を導き闇を追い払うという伝説があるというのだ。最初は半信半疑だったものの、その直後に襲ってきたレオモンをデジバイスの光が撃退するのを見たミミと光子郎は、デジバイスに秘められた底知れない力を感じるのだった。 「お腹すいたって言ってるのに!」 すべてが終わってからもまだ不満顔のミミ。島を動かす黒い歯車を分析するために、光子郎がまたパソコンとにらめっこを始めてしまったのだ。 「まったく! こんな歯車、腹の足しにもならないわ!」 怒りを込めて島を動かす歯車を思いっきり蹴飛ばすミミ。次の瞬間歯車は逆回転を始め、島が元の場所に戻り始めた! 「島が元に戻り始めた!」 あまりの出来事に呆然と立ち尽くす光子郎。 「お腹空いたぁー!」 自分のしたことの重大さもお高「なしに不機嫌にわめきちらすミミ。そんな二人にあきれるパルモンのとなりで、あくまでのんびりとマイペースなテントモンが皮だけのバナナをパクパクと食べ続ける。にぎやかな一行を乗せた島は、ゆっくりとムゲンマウンテンに向かい始めていた。
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