スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

坂田凜々子 後編

十萌さんからの緊急連絡を受けて、走って神社へ向かう。

十萌
「ダメじゃないですか! こんな夜遅くに、女の子ひとりであんな場所に行かせるなんて……え、知らない?」

レッスンの後、別れたきりだった。
神社なんかで、いったい何をしているのだろう?
木の陰から除くと、凜々子は社殿の前で熱心に手を合わせていた。

凛々子
「神様……自分がバカでドジで、何の才能もないのはわかってます。笑われたっていいんです。そんなの慣れてるし、人が笑ってる顔を見るのは好きだから。でも、バディが笑いものにされるのは見たくない。厳しいけど、こんな私のために一生懸命になってくれる、とってもいい人なんです。だからあの人のために、今度のお仕事を成功させる、ほんのちょっとのラッキーを下さい……」

そうして、一人でレッスンの復習をはじめる。
失敗しては泣きそうになるが、涙を拭ってまた挑戦。
いつもはおちゃらけているけど、陰ではこうして、誰よりも頑張っていたのだ。

凛々子が本当はどんな子か、ようやくわかった気がした。

そして、ステージイベントの当日——

凛々子
「つ、続きましては、ご歓談ください! じゃなかった!! えっと、ちょっと待ってくださいね、閉会の辞はまだだから、開会の辞? プログラム変更があった所だから……」

観客は、凛々子の司会のドタバタぶりに爆笑している!

学院の先生
「ふむ……段取りは悪いが、とにかく笑いが取れるな。これはもしかすると、化けるかも知れない……」
凛々子
「本日はお日柄もよく、イベントにご参加いただき誠にありがとうございました!」
光貴
「はっはっは! 無様すぎて笑いを取るとは、大した才能じゃないか。ずいぶん努力してきたんだろうな」
凛々子
「……ううっ……!」

涙目になった凛々子は、会場を飛び出していってしまった!

光貴
「この観衆の盛り上がりは、お前達を見下す嘲笑なのだ。身のほどを知るんだな、虫けらどもが!」

夜になって、凜々子は神社に現れた。

凛々子
「うう……神様……頑張っても頑張っても、うまくいきません。私、どうすればいいですか? 今ここで死んじゃったら、もうちょっとバカでドジじゃなく生まれ変われますか?」
「こんの馬鹿もんが!」
凛々子
「!?」
「簡単に死ぬなど言うな。お前が誰より頑張っていることは、バディだって知っている」
凛々子
「か、神様?」
「ナンバーワンのバカだけど、そのかわりナンバーワンの努力家だと、お前のことをわかってくれているはずだ」
凛々子
「……」
「相棒なんだから、もっと信じろ。本当は泣き虫だったり、しょっちゅう迷惑を掛ける奴でもいい。いつかきっと、上手くいくようになる時が来る」
凛々子
「あれ? この声って……よーし、とりゃああああ〜〜〜っ!」

凛々子が社殿の扉を勢い良く開けた!

凛々子
「へ〜、この人が神様か〜。何だか見覚えあるな〜。こことか、この辺とか、バディにそっくり……そのヒゲは本物? ガムテープみたいなのが見えるけど、思いきりベリって剥がしていい? え〜? いいじゃん! 神様だったら平気でしょ?」

凛々子は涙に濡れた目のまま、もう笑っている。

凛々子
「あっ、こんな所にバディの服が! 大変、届けてあげなくちゃ! 神様〜、返してほしいなら、こっこまでお〜いで〜♪」

二人の心の距離がぐんと縮まった気がした。

凛々子
「病院?」

それは、十萌さんの頼みだった。

十萌
「はい。実はですね……看護婦をしてるお友達から、長期入院中の子供たちに、話し相手を見つけてくれないかって頼まれてるんです。いつも明るい凛々子ちゃんに、ぜひぜひお願いしたいのです。引き受けてくれないでしょうか」

イベントステージでのこともあり、凜々子は一瞬、不安そうな顔をした。
けれど、キッと唇を結んで言った。

凛々子
「うち、やります! うちなんかでも誰かの役に立てるなら……やらせてください!」

子供たちと同じ目線で語り、冗談を言い、笑いを巻き起こす凜々子は、たちまち小児病棟の人気者になった。

子供達
「凜々ちゃん、もう帰っちゃうの? また来てくれる?」
凛々子
「もっちろん! うちの元気なら、いくらでも分けたげる!」

凜々子は大切な何かを見つけつつあるのだろう。
子供たちに披露するお芝居だって、台本を完璧に覚えてきた。

凛々子
「ああ、バディ王子様が魔女の呪いで眠っちゃった! 目覚めるにはお姫様のチューを……バディさんとチューしたい人、手を挙げて〜! 誰も居ない! やっぱりな〜。んじゃ、別の目覚める方法をみんなで考えよう!」

お芝居も終わり、帰ろうとした時だった。
ずっと入院していた女の子が、凜々子に声をかけてきた。

凛々子
「あ、かなたちゃん」
かなた
「こんにちは」
凛々子
「早く元気になってね! うち、今度の星華学院の文化祭で、もっとスゴイ劇やるから! 元気にならないと見逃すぞ〜?」

かなたちゃんは、静かに首を横に振った。

凛々子
「……え?」
かなた
「かなたね、明日から、お家に帰るんだ」
凛々子
「退院……よくなったの……? 違うって、それじゃ……」
かなた
「凛々子お姉ちゃん、今まで、ありがとね」
凛々子
「かなたちゃん……」

病院から出た凜々子は、声を上げて泣いていた。

文化祭が近付き、出場者を決めるオーディションには凜々子も登録。
見事に出場権を勝ち取った!

ファルセット
「間違いありません、坂田凛々子は急成長しています。このままのペースで成長を続ければ、私を超える可能性も……」
光貴
「急成長? あのバカ女が? 文化祭には演劇の部で参加すると言ってたな……フン、面白い。努力は才能を越えられん。決勝ステージでは、生まれながらのセレブの力を、とことん思い知らせてやるとしよう」

そして文化祭当日、凜々子たちの楽屋に思わぬトラブルが持ち上がった。

生徒A
「ひどい……大道具や衣装がめちゃくちゃ……やっぱり上保君が……」
生徒B
「こんな大変な時に、来てるキャストも坂田だけってどうなってるんだ! みんな何やってんだよ!」
凛々子
「大丈夫、うちが何とかするから。みんなが来るまで、即席お笑いライブで場を繋ぐ。全部アドリブでも、絶対にヘマはしない」

真剣に語る凛々子の手には、大事そうに一通の手紙が握られていた。
そして舞台の幕が上がる。

坂田凜々子

即興のお笑いライブで笑いを取り、自然に舞台につなげて大成功に導いた凛々子。
衣装の中には、小児病棟で出逢ったあの女の子が、亡くなる直前に凛々子に宛てた手紙が入っていた。

『ありがとう。凛々子お姉ちゃんがたくさん笑わせてくれたおかげで、入院中にあった辛いことや苦しいことも、みんな忘れることが出来ました。
才能、あると思う。凛々子お姉ちゃんは、人を笑顔にする天才です。
天国に行って本当の神様に会ったら、こんなに楽しかったんだって話すね。
これからも頑張って、凛々子お姉ちゃん。  かなたより』

学院長
「グランプリは坂田凛々子! 満場一致じゃ!」

文化祭の後、凛々子は学院の屋上で、暮れゆく西の空を見ている。
何を見ているのかと訊くと、まばゆい宵の明星を指さしてみせた。

凛々子
「今ごろ、あの辺にいるのかあと思って……」

そう、あの病院で出会った、かなたという女の子。
最期はずっと帰りたがっていた家で、眠りについて天使になった。
凛々子は大きな声で呼びかける。

凛々子
「ずっと見ててね!」

宵の明星は答えるかのように輝きを増す。
凛々子は浮かんできた涙を拭い、空に向かって最高の笑顔を向けるのだった。

坂田凜々子

坂田凜々子編・おわり

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