『スタプラ!』キャラクターエピソード
柏木ノエミ 後編
- 十萌
- 「じゃっじゃ〜ん! やっと用意できましたよ。バディさんとノエミちゃんをつなぐホットラインです!」
十萌さんが渡してくれたのは、無理を言って頼んでいた携帯電話だった。
- 十萌
- 「ノエミちゃん、携帯を持つのは家から禁止されてますから、ご両親に見つからないように気をつけてくださいね」
ありがとう、十萌さん。これでノエミを、こっそり家から連れ出すことが出来るだろう。
これまでノエミは両親の言いなりだったから、心のままに自由に生きることを知らない。
レッスンだけじゃなく、嬉しいことや楽しいことも、たくさん経験させてあげよう。
*
そうして、これまでとは違う毎日が始まった。
図書室で見つけた時代小説を一緒に読んで、小さな劇団の公演にゲスト出演。
カラオケは十萌さんも来てくれたおかげで大盛り上がり!
電気街に買い物に出かけたり、おしゃれな隠れ家カフェに行ってみたり、ビーチに遊びに行ったりもした。
公園で一緒にお弁当を食べている時、ノエミは笑顔を向けてくれた。
ずっと無表情だったノエミが笑ったのだ。
そして、学院での歌の授業——
「ヒソヒソ……(今日の柏木さん、いつもと違うね)」
「ヒソヒソ……(うんうん、何か歌に気持ちが入ってるっていうか)」
「ヒソヒソ……(最近、ちょっと幸せそうだし、何かあったのかな?)」
先生が声をかけてくれる。
- 先生
- 「柏木さん、あなた、変わったわね」
- ノエミ
- 「……?」
- 先生
- 「歌う技術だけなら、あなたは前から素晴らしいものを持っていた。でもね、こう言っちゃなんだけど、ロボットが歌ってるみたいだって思ってたの。気持ちが全く伝わってこなかった。でも、バディさんと出会ってからは変わったわ」
- ノエミ
- 「……」
- 先生
- 「まるで天使の翼を手に入れたみたい。きっとあなたは、どこまでも高く羽ばたいていけるわ」
文化祭に向けて順調なノエミに、十萌さんもご機嫌だ。
- 十萌
- 「ノエミちゃん、今日はバディさんに言いたいことがあるんじゃないですか?」
- ノエミ
- 「あ…あの……いつも、あ、ありが……」
赤くなりながら、一生懸命に感謝の気持ちを伝えてくれる。
- 十萌
- 「うふふっ♪ このままいけば、来年も学院に通い続けること、ご両親も認めてくれるかもしれませんね」
だが、そんなにうまくはいかなかった。
ある日のレッスンの後、学院長がやってきた。
- 学院長
- 「柏木君、調子の方はどうだね?」
- ノエミ
- 「それなりに……」
- 学院長
- 「うむ、講師の先生方も、君らの成長には目を見張っておるらしい。もちろん、これからもしっかりやらねばならんが……」
- ノエミ
- 「あの……何か、おっしゃりたいことが……?」
- 学院長
- 「う、うむ。実は、非常に言いにくいんじゃが、柏木君のご両親からバディを上保君に変更するよう言われてのう。本人の意思に任せて欲しいと、答えはしたんじゃが……」
*
柏木邸——
- ノエミ
- 「お父さま、学院長先生から聞きました」
- ノエミの父
- 「何をだね?」
- ノエミ
- 「私のバディを替えること……」
- ノエミの父
- 「ああ、そのことか。上保家とうちは大事なつながりがあるし、光貴君はお前の婚約者。それに、娘が親の言う通りにするのは当然だろう?」
- ノエミ
- 「……」
- ノエミの父
- 「お前が毎晩部屋で練習している歌も、いい加減にやめたらどうだ? あんなくだらない……」
- ノエミ
- 「くだらなくなんてない!」
- ノエミの父
- 「な、なんだその態度は!」
- ノエミ
- 「バディさんが教えてくれた気持ちは、くだらなくなんてない。嬉しいことや、楽しいことや、苦しいこと……教えてくれたことをぜんぶ込めて、生まれてはじめて、心から歌いたいって思ったから……だから文化祭のステージで歌うために、一緒に作った歌なんです。私は学院で、大切なことを学びました。だから聴きに来てください。私の……私たちの歌を!」
*
- 光貴
- 「聞いたぞ、ノエミ。両親の言いつけに従いたいのなら、どうぞ私のバディになってくださいと土下座でもしてみたらどうだ?」
- ノエミ
- 「……お断りします」
- 光貴
- 「何い?」
- ノエミ
- 「それから、あなたには前々から、申し上げたいことがありました……どうぞ私の目の前から消え失せて、二度と現れないでください」
- 光貴
- 「貴っ様ぁ……! 覚えてろよ、文化祭では目にもの見せてやるからな!」
数々の困難をくぐり抜け、文化祭のステージがはじまった!
光貴のバディ・ファルセットは、全くミスなく素晴らしい歌声を披露する。
舞台袖でじっと見つめていたノエミは、最後の登場だ。
ノエミが歌い出した途端、会場中が静まりかえる。
感動を超え、歌う彼女と重なって見えたのだ。
翼を広げて空へと向かう天使の姿が。
- 司会
- 「グランプリは柏木ノエミさん!」
立ち上がって拍手をする観客の中には、ノエミの父の姿もあった。
*
空港——
今日はノエミが、海外の芸術学校へと旅立つ日だ。
- ノエミ
- 「ありがとう、バディさん……海外の芸術学校に行っても……教えてもらったことは、いつまでも忘れません……」
ちなみに、上保光貴との婚約は破談になったらしい。
- ノエミ
- 「……それでは、もう、行きますね……」
ノエミの乗った飛行機は小さくなり、空の彼方へ消えてゆく。
いったい、いつまで見送っていただろう。
展望デッキから降りてくると——
「あ、あの……」
そこには、ノエミが立っていた!
- ノエミ
- 「飛行機、乗りそびれてしまいました……」
そう言って、いたずらっぽく、そのくせ恥ずかしそうに微笑むノエミ。
- ノエミ
- 「いったい、どうすれば……?」
そんなの決まっている。
学院に戻り、これからも二人で夢を追いかけるのだ。
天使にはもう、翼がある。
ノエミの手を取り、光の射し込む空港の出口へ、本当のスタート地点へと歩いてゆく!
柏木ノエミ編・おわり
Page Top
ノベルページトップ