スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

柏木ノエミ 前編

星華(せいか)学院。
世界的に有名な芸能学校であるここでは、芸能部とマネジメント部の生徒同士が「相棒(バディ)」になるのがルール。
だが、相棒はいまだ見つからずにいた。
かつては芸能部で将来を嘱望されていたが、ケガのためにマネジメント部に編入になって以来、夢を見失って腐っていたのだ。

そして、申し込みの最終日——
校庭の隅で昼寝をしていると、放送で名前を呼ばれた。
「マネジメントコースの……君、至急、学院長室まで来なさい」
学院長室には、険しい表情の学院長が待っていた。
「君はまだバディが決まっていないようだが、どうするつもりかね? バディをつくれないままだと、退学してもらうのがルールだ。それがイヤなら柏木ノエミ君と組んで、文化祭のステージで結果を出したまえ」

柏木ノエミ?
誰だか知らないが、マネージャーとして人の夢をかなえるなんて考えたこともない。
退学を決意して学院長室から出ると、どこからか歌声が聞こえてきた。
引き寄せられるように声を追うと、さびれた裏庭に来ていた。
そこで彼女が歌っていた。
歌声も歌う横顔も、翼をなくした天使のよう。
それがノエミとの出会いだった。

柏木ノエミ

ノエミ
「……そう、あなたが……」

さっきの歌声には、一瞬、魂を奪われてしまった。
この子となら、もしかして……

春野十萌が、ノエミ用の衣装を見つくろってくれている。
十萌さんは何かとみんなの世話を焼いてくれる、学院の事務員見習いだ。
無表情で窓の外を眺めているノエミの方を窺いながら、こっそりと耳打ちしてくる。

十萌
「ノエミちゃん、ちょっと無愛想に思うかもしれないですけど、ホントはとってもいい子なんですよ。リードしてあげてくださいね」

ノエミは気付いて、窺うような目を向けている。
そうしてレッスンの日々が始まった!

だが、すぐに問題が発生した。
ノエミはほとんど感情を表にあらわさず、他の生徒とは話そうとすらしないのだ。
ふいに姿を消したかと思うと、手にとまらせた小鳥が飛び立つのを見送っていたりする。

ノエミ
「自由に生きて……」

家に連絡しても取り次いでもらえないし、レッスンの延長もままならない。
終業後すぐに黒塗りの車に乗った執事が迎えに来て、強引に連れ帰ってしまうからだ。

十萌
「ノエミちゃんのお家、ちょっと複雑で、すごく厳しいんです。ご両親からは、来年からは海外の芸術学校に行けって言われてるみたいですし。そのうえ婚約者まで……」

その婚約者こそ、同じマネジメント部の上保光貴だった。

光貴
「はっはっはっ、聞いたぞ、ノエミのバディになったらしいじゃないか! さては学院長に押しつけられたな。ま、せいぜい歌のテストを頑張りたまえ。ノエミは心をなくしたロボット、歌えと言えば歌いはするだろうからな」

光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わり、こちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。

光貴
「どうしたノエミ、笑ってみろ。お前は僕の婚約者。この僕と結婚できるという幸せを与えてやったのに、微笑むこともできないのか?」
ノエミ
「……」
光貴
「ふん、バカな女だ」

ノエミは曇り空を澄み渡らせるほどの歌の才能を持っているが、感情表現に問題がある。
とあるイベントステージで淡々と歌い終えて楽屋に戻って来ると、またしても光貴が現れた。

光貴
「なんだ今の歌は。他の出場者がクズ同然なのに助けられたな」
ノエミ
「……」
光貴
「技術はあっても心がなければ、本物の歌手にはなれん。ノエミ、愛の歌をうたえ。この僕の妻になる喜びと幸せを歌え」
ノエミ
「それはイヤ……」
光貴
「まあいい。そういえば、まだ僕のバディを紹介していなかったな」
ファルセット
「わたしはファルセットver.1.0、光貴さまの忠実なるアンドロイド」

それはノエミとどこか似た、作り物の少女だった。

光貴
「感情を込めずに技術だけで歌うなら、人間よりもアンドロイドの方が上だ。思い知るがいい、柏木ノエミ。文化祭のステージでは、必ず目にもの見せてやる。僕の愛に応えようとしない、報いを受けるんだな」

さすがに言い返そうとしたところに執事が現れ、黒塗りの車でノエミを連れ去っていく。
後部座席の窓から振り返ったノエミのまなざしは、確かに助けを求めていた——

柏木ノエミ

柏木ノエミ 後編につづく

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