スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

琴寝 臨海学校編

琴寝のバディになってから、初めての夏。

琴寝
「おっす、下僕!」

上機嫌の琴寝が、なぜか浮き輪をつけてやって来た。

琴寝
「感謝しなさい。あんたも海に行けるわよ! 相変わらず鈍いわね〜、臨海学校よ。もうすぐじゃないの!」

琴寝は共働きの両親に代わって、夏休みに入った下の子たちの面倒をみるため、当初は参加を見送る予定だった。
けれど、親戚のおばさんが子供たちの面倒をみてくれることになって、急遽、行けることになったのだ。

琴寝
「家のことは気にせずに、思いきり楽しんできなさいってさ。あんたもあたしの水着姿がタダで拝めるからって、はしゃぎ過ぎんじゃないわよ!」

「海ではしゃぐなんて、お子さまじゃないんだし?」とか言っておきながら、このありさまだ。
にやにや笑いながら見ていると、「気持ち悪いわね!」と、蹴りを入れられてしまった。

そして当日、学院の生徒を乗せたバスは海辺の旅館に到着した。
バスのドアが開くと、

琴寝
「うわっ、暑っ! 下僕、風! フーフー息を吹きかけても意味ないでしょうが! うちわであおぐのよ」

散策がてらに街の方へ足を伸ばして、かき氷でも買ってやるとしよう。

十萌
「夕方まであんまり時間が無いですから、早めに帰って来てくださいね〜」

アーケードでの琴寝は相変わらず猫をかぶっているが、少し話しただけで誰の心でも鷲掴みにしてしまうのは、やはりさすがだ。

おじさん
「お兄ちゃんとお散歩かい? いいねえ」
琴寝
「えへへっ、お兄ちゃんだ〜い好き♪」

おじさんに聞こえないように「気持ち悪っ」と言うと、見えないところで力いっぱいつねられたのは言うまでもない。
その夜、旅館の大広間での夕食の席で——

学院長
「うぉっほん。皆、楽しそうじゃな。だが、食べるのはワシの話を聞いてからじゃ」

学院長先生が、マイクを持って話し出す。

学院長
「こうして毎年行なっている臨海学校じゃが、バディの親睦を深めることだけが目的ではない。スターとは、全国の人々に笑顔をもたらして初めて認められる称号。学院から離れたこの土地の方々と交流し、人の喜びとは何なのかを感じ取るのじゃ。最終日には、地元の皆さんにも審査に加わってもらって、真夏のスターグランプリを行う。学んだ成果をしかと見せよ。以上! 何か質問は?……無さそうじゃの。こら海鴎君、バディのコロッケをこっそり食べてはいかん」
琴寝
「ふぉうふゃべひゃいまひは、フェヘ☆(もう食べちゃいました、テヘ☆)」

レッスンと観光の合間に、商店街で開かれる漁協主催のノド自慢大会に出演することになった。琴寝に「この町のパパ」とか言われて心をかっさらわれた漁協の組合長から、直々に打診されたのだ。
どうも、人の集まりがあまりよろしくなく、少しでも盛り上げてほしいらしい。
琴寝は期待に応え、ステージで自慢のノドを披露する。
最初は確かに閑散としていたが、最後には大盛況! 歌い終えた琴寝には、やんややんやの大喝采がおくられていた。

漁協の組合長
「いや〜、ほんとにありがとよ。みんな喜んでるし、おかげで辺りの店も大繁盛だ! お礼と言っちゃなんだが、こいつをもらってやってくれ」

抱えきれないほどの海の幸やお菓子や心からの賞賛に、琴寝は家族へのお土産ができたと大喜びだ。

漁協の組合長
「真夏のスターグランプリってのもやるんだってな? 琴寝ちゃんなら優勝間違いなしだ。俺たち海の男も、全力で応援すっからな!」

夜——

学院長
「二日目はどうじゃったかな? 土地の方々と交流しておる者もおるようで、ワシとしては嬉しいかぎりじゃ。与えられるレッスンにひたすら打ち込むのも、悪いとは言わん。しかし、新しい出会いを求めて勇気を出して飛び出していくことが、自らの力で運命を切り開いていくことにつながるのじゃ」

琴寝は町の地図を熱心に眺めている。

学院長
「(海鴎君、真剣に地図を見て、レッスンに最適なロケーションを探しておるのか。成長したのう)」
琴寝
「(徳川の埋蔵金が埋まってるロケーションとかないかしら……)」
学院長
「さて、明日の夜はクラス対抗のかくし芸大会じゃ。一同、とっておきのネタの準備は出来ておるかな?」

食事を終え、別の場所でかくし芸大会の打ち合わせをしようと廊下に出ると、

琴寝
「あ、成金ボンボンとファルセットだ。何してんだろ」
ファルセット
「衛星電話機能を起動します」
光貴
「もしもし、こちら光貴だ。例の件、手はずは整ったか? ああ、予定通り闇に紛れて……」
琴寝
「暑さで頭がやられちゃったのかしらね?」

かくし芸大会の直前、会場の大広間へ向かう廊下を歩いていると、今度は光貴の方から行く手に立ちふさがってきた。
少しでもプレッシャーをかけてやろうという意図が見え見えだ。

光貴
「やあ、奇遇だな」
琴寝
「待ち伏せ? ヒマなの?」
光貴
「そ、そんな訳ないだろう! 君たち貧乏人と一緒にしないでくれたまえ。前世からのセレブリティであるこの僕は、自家用のクルーザーで海に出たり……」
琴寝
「ほいっ」

琴寝が素早く手を動かす。
何とその手には、光貴の財布が握られていた!

光貴
「ぼ、僕の財布!」
琴寝
「手品よ手品、あたしのかくし芸」

財布を光貴に投げて返し、

琴寝
「財布だけじゃなく、ハートも盗まれないように、せいぜい気を付けときなさい。じゃね☆」

そして、かくし芸大会本番——
いつの間に身につけたのか、琴寝の手品は本当に見事なものだった。

琴寝
「うちのクラスが優勝よ! 当然の勝利ね。もっと称えなさい、下僕達!」
光貴
「そ、そんなバカな……いや、これはあくまでリハーサル。本番は、真夏のスターグランプリだ!」
琴寝
「グランプリではあんたも、下僕としてあたしを引き立てるのよ。働き次第では、下僕四軍から三軍にしてやってもいいわ!」
光貴
「僕がいつ下僕になった! 覚えてろよ!」

翌日、かくし芸大会での勝利のご褒美に、レッスンを休んでビーチで遊んでいると、
——ぐうぅぅ〜
琴寝のお腹が鳴った。

琴寝
「げ、下僕ってばお腹空いたの? 仕方ないわねえ、お昼にするわよ」

すると突然、バラバラと音がして、ヘリコプターが上空から舞い降りてきた!

琴寝
「うわっ、何!? 食料援助のヘリコプター?」
光貴
「ビーチでお楽しみの皆様、上保グループより、フードとドリンクの無料サービスです!」

たちまち観光客は、「無料だって!?」「すいませーん、1つくださーい!」と、押すな押すなの大騒ぎ。

琴寝
「うそ、ほんとに食べ物があるの!? あたしたちももらいに行くわよ。タダより安いものはないわ!」
観光客
「いや〜、太っ腹だねえ。ん? 紙コップに何か書いてある。なになに、真夏のスターグランプリでは、上保光貴とファルセットに清き一票を……?」
琴寝
「モグモグ……なるほどねえ。胃袋を掴んだ者が人の心も掴む。考え方としては間違ってないわ……モグモグモグ……」
光貴
「ふふっ、買収作戦は順調のようだな。発電機の方も手は打ったし、これで優勝は間違いなしだ」
琴寝
「でも、やり方が気に食わないわね。これじゃ、同じように無料配布できる体力がない海の家が、みんな困っちゃうじゃない……そうだ、いいこと思いついたわ!」

琴寝は携帯電話で誰かと話している。
しばらくすると、辺りに食欲をそそる香りが漂ってきた。

琴寝
「天然の採れたての高級海の幸! 添加物一切なしで栄養満点! 海の家の各店舗で、大特価販売中です! 売り切れ次第おしまいで〜す!」
観光客
「焼いた魚やホタテの匂い……こっちの方が美味そうだ!」
水着の女性
「パラソルも用意されてるわ! 行きましょうよ。暑くて日陰を探してたの」

お客さんが続々と移動していく!

光貴
「くっ、くそ〜っ!」
琴寝
「下僕、覚えておきなさい。タダより安い物はないけど、安物は本当に人を喜ばせることはできないの」

ふと見ると、お客さんが移っていった先の店で、漁協の組合長がグッと親指を立ててみせる。

琴寝
「豊漁で余り気味だっていう海産物も利用できるし、一石二鳥ってとこね」

そしていよいよ、真夏のスターグランプリ本番——

琴寝
「さあ、パーッと派手に暴れるわよ!」

——ガコンッ!
突然イヤな音がして、ステージの照明がダウンした!

琴寝
「ちょっと、まだあたしの出番が残ってんのよ!」
光貴
「おやおや、ついてないねえ、こんな時に発電機が故障するとは」
琴寝
「あんた、まさか……」
観客A
「おいおい、どうなってんだ?」
観客B
「どうも発電機が壊れたらしいぜ」
観客C
「ついてねえなあ、琴寝ちゃん目当てに来たっつうのによ」
光貴
「照明なしでは、さすがの貴様も手も足も出まい。さあ、どうする?」
琴寝
「どうするって言ったって……」

琴寝はにやっと笑うと、観客席に向かって言った。

琴寝
「漁協のパパたち、あたしのためにもう一度、船を出してくれる?」

そう、船だ。
すっかり漁協と仲良くなった琴寝は、これまでも漁船に同乗し、海の上で演歌の特訓をしていた。

海鴎琴寝

たとえばイカ釣り船の明かりなら、充分すぎるほどに照明の代わりになる。
それほど間を置かずに、準備完了!
船の灯がかえって迫力を生む演出になって、琴寝のステージは大成功! 見事にグランプリを獲得したのだった。

海鴎琴寝

漁師たち
「琴寝ちゃーん! 最高の舞台だったぞぉーっ!」

惜しみない拍手がおくられる中、

学院長
「優勝おめでとう。スターとは人々と夢や希望を分かち合う仕事。それを一番実現できたのは、間違いなく海鴎君だ。優勝賞品は、高級エステのタダ券じゃ! 疲れも癒されるし、オトナの魅力も身につくかもしれんぞ」
琴寝
「(今のはセクハラね)ありがとうございます! 両親へのお土産にします。あたしへのマッサージとかは、そこで嬉しそうな顔してる下僕……マネージャーが、いつもタダでやってくれてますから!」
観客たち
「わはははははははは!」

授賞式が終わると、力を出し切った琴寝は眠り込んでしまった。
人々の温かな眼差しに見送られつつ、旅館の部屋まで琴寝をおんぶしていく。
星のきれいな誰もいない夜道で、琴寝は寝言を呟くのだった。

琴寝
「下僕……大好き……」

たくさんの想い出の中がある。
今のだけは、自分ひとりの秘密にしておこう。

海鴎琴寝

琴寝 臨海学校編・おわり

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