スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

卯月花音 中編

生徒A
「あいつ、誘拐で捕まったらしいぜ」
生徒B
「何で退学にならないんだろう」
生徒C
「バディの卯月さんもグルなんじゃ……」

学院内は、よからぬ噂でもちきりだ。
そして、落成式でのステージ当日――

花音
「お父さん!」

花音が、来賓の男性のもとへ駆けていった。

花音の父
「花音か。こんな所で何をしてるんだ? 仕事? ああ、そういえば、そんなことも言っていたな」
花音
「……」
花音の父
「で、そちらの方がお世話になってる……家出なんかして御迷惑をおかけしたこと、ちゃんと謝ったのか?」
花音
「家出じゃない……私……私はバディさんと結婚するつもりで、家まで行ったんだから! お父さんが勝手に誘拐されたと思い込んで、通報したんでしょ?」
花音の父
「通報したのは秘書だ。花音、あまりお父さんを困らせんでくれ。忙しいんだ」
花音
「う……」

花音はポロポロと涙をこぼしはじめた。

花音
「私なんかに興味がないなら、はっきり言えばいいじゃない!」

仕事を終えて学院に戻っても、花音は膝を抱えて顔を埋めたまま、一言も口を聞いてくれなかった。

十萌
「花音ちゃんのお父さん、国会議員の卯月議員なのです。昔からず〜っと、すっごく忙しい方で……今は選挙が近いですし、家にもほとんど帰らないとか」

十萌さんが、花音の父親について調べてくれた。

十萌
「花音ちゃん、本当は寂しがりやの甘えん坊で、誰かに構って欲しいんじゃないでしょうか。心から誰かを信じたいのに、誰も信じられずにいる……信じられる人を求めて学院に来て、自分と同じように孤独だった人を、バディに選んだのかもしれません」

花音はどうしたら、心を開いて信じてくれるのだろう。
悩んでいる時だった。

おませ店長
『車を買うなら今がチャンス! 減税に補助金までついてきます。おませ店長からの、お知らせよ♪』

十萌さんを交えた三人で昼食をとる、学院の食堂。
テレビに流れるCMでは、超人気美少女タレントが愛想をふりまいている。

十萌
「あっ、如月みなせちゃん! カワイイですねえ」
花音
「……」
十萌
「花音ちゃんも、子役だった頃はよくCMで共演してましたよね。みなせちゃんって、やっぱり普段から……」
花音
「十萌さんも、ああいう媚びてて卑怯な子の方が、構ってあげたくなるんですか?」
十萌
「そ、そんなわけじゃ……」
花音
「いいこと思いつきました! 私、媚びるのは苦手ですから、別の方法を試してみようと思います」
十萌
「……?」

花音は何を考えているのだろう?
それが明らかになったのは、翌週に開催された、あるオーディションの時だった。

十萌
「花音ちゃん、どこに行っちゃったんでしょう……」

花音は会場に現れず、姿を消してしまったのだ。

十萌
「まさか、誰かに誘拐されて……」

ありえない話ではない、何しろ国会議員の娘なのだ。
その時、携帯電話が鳴った。
花音からの着信だ!

花音
『バディさん、私、トラックにはねられちゃいました! 大けがをして……今、公園で倒れてるんです。お願い、助けて……バディさん……!』

考えるより先に体が動き、オーディション会場を飛び出していた。
走って、走って、息が切れてもなお走った。
そして、公園に駆けつけると――

花音
「もう来たんですね。早かったじゃないですか」

大けがどころかかすり傷ひとつ負っていない花音が、ブランコに座っていた。

花音
「何ヘンな顔してるんですか? 私はただ、バディさんがホントに来てくれるかどうか、ちょっと嘘をついて試してみただけです。媚びるのは苦手ですから。ちゃんと構ってくれたので、まあ一応、バディとしては合格とします。でも明日からは……」

ふざけるな!
思わず怒鳴りつけていた。
大けがをしたと聞いて、どんなに心配だったか。
そんな嘘をつかれた人がどんな思いになるか、どうして分からない。
大切に想ってくれる人に、何でそんな思いをさせようとするんだ!

花音
「大切に想うって、そんなの、どうせ口先だけじゃないですか」

口先だけなら、全力で駆けて来たりしない。
大切に想う気持ちは絶対に嘘じゃない。

花音
「でも……でもっ! そんなの……!」

気付けば怒鳴り合いになっていた。
花音は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらわめき、叫び、言葉に詰まるとその場に座り込み、わんわんと声を上げて大泣きをはじめた。

卯月花音

泣きじゃくる花音をそっと抱きしめると、強くしがみついてくるのだった。

花音
「ご、ごめ……ごめんなさい……ひっく…うううう……ごめんなさい……」

頭を撫で続けていると、ようやく落ち着いたようだ。
夕暮れの道を、二人並んで帰っていく。

花音
「バディさん……?」

振り向くと、なぜかハッと息を呑み、泣き腫らした目を慌ててそらす。

花音
「手を……つないでも、いいでしょうか?」

小さな手を取ってあげると、きゅっと力をこめて握ってくる。

花音
「バディさんの手、あったかいんですね……知りませんでした……」

しばらく歩くと、花音は胸のあたりを押さえ、

花音
「あれ……? あれ……?」

息苦しいのだろうか?
声をかけようとすると、いきなりつないでいた手を離した。

花音
「別に送って頂かなくても結構ですから! まったく、ダメなバディさんですね!」

夕陽の中にいても、顔が真っ赤になっているのがわかる。

花音
「ああ、あ、あの……」

珍しく、うまく言葉が出てこないようだ。

花音
「ま、また明日です! 絶対、また明日! 私のところに、一番に会いに来てくださいね!」

よく分からないことを言って、花音は駆け去っていくのだった。

卯月花音 後編につづく

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