スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

織部あやね 中編

ある日――

取り巻きA
「あやね様〜。あやね様は文化祭、どうされるんですか?」
取り巻きB
「もちろん、文化祭なんて眼中に無くて、プロのオーディションに挑戦して合格されるんですよね!」
あやね
「と、当然よ」
取り巻き達
「声を合わせて〜……せ〜の、すっご〜い!」

いつものように取り巻きに囲まれて校門から出てくるあやねを、他校の女の子が、少し離れたところから見ていた。

???
「あの人、雰囲気は昔とぜんぜん違ってるけど……あやちゃん?」

あやねの知り合いだろうか?

あやね
「あ、あの、十萌さん? ちょっと、相談があるんだけど……」
十萌
「十萌なんかでいいのなら、何でもウェルカムなのです!」
あやね
「あのね……その……いくらセレブだからって、文化祭に参加せず、プロのオーディションを目指すなんて……やっぱり、ねえ……?」
十萌
「十萌はスゴイと思いますよ。夢に向かって、あえてイバラの道に踏み出すなんて、さすがはセレブさんなのです! 元々持ってるモデルの経験に満足せず、世界的な舞台に立ちたいという気持ち、十萌、全力で応援するのです!」
あやね
「あ、うん……ありがと……」
十萌
「実は今度、世界的に有名なファッション雑誌『VOGLE』のファッションショーが開催されるんですよ。オーディションの内容は、何と何と、そのショーのモデルを選ぶというものなのです。あやねちゃん、ぜひ、エントリーしてくださいね!」
あやね
「『VOGLE』? 世界中のセレブ御用達のハイファッション雑誌の『VOGLE』?」
十萌
「あやねちゃんには説明の必要もありませんでしたね。今回のオーディションには、現役のトップモデルで英国貴族の血を引くセレブ、ナオミ・シンクレアさんも参加予定なのです」
あやね
「な、ナオミ・シンクレア……ああ、彼女! 彼女ね。ナオミ・シンクレア、略してシンちゃん。懐かしいわ……」
十萌
「そんな仲だったのですか!? さすがはあやねちゃんなのです」
あやね
「……」
十萌
「あやねちゃんなら、ナオミ・シンクレアさんを上回っての合格も夢じゃないのです。頑張ってくださいね!」

十萌さんが立ち去った後も、あやねは浮かない顔をしていた。
さすがに、プレッシャーがあるのだろう。

あやね
「セバスチャン、あたしね、ほんとはもっと……あたしの身の丈にあった……」
光貴
「はーっはっはっはっ! 庶民の中でも底辺の身の丈になんか合わせると、汚れてしまうぞ、お姫さま」

上保光貴が現れた。
光貴とはかつて、芸能部で競い合うライバル同士だった。
ライバルと言っても、オーディションの結果を、裕福な実家のお金で買おうとするような男だ。どうしたってこちらに勝てない苛立ちが、いつしか憎しみに変わり、こちらがマネジメント部に移ってからは自分も転籍。毎日のように嘲笑を浴びせてきては、学院から追い出そうとあの手この手を尽くしてくるのだ。

光貴
「さあ、そんなバディは捨てて、光り輝く上保グループの御曹司である、この僕のもとへ……」
あやね
「シャラップ、あほ! 急に出てきて何よ」
光貴
「僕のもとに来れば、セレブリティな財力で、君を必ずファッションモデルにしてあげよう」
ファルセット
「そしてあわよくば、お近づきになりたいと、光貴さまは企んでいらっしゃいます」

光貴のバディ、アンドロイドのファルセットが続ける。

光貴
「もちろん、『VOGLE』だけじゃない。他にも色んな雑誌に……」
ファルセット
「そしてあわよくば、振り向いてもらおうと企んで……」
光貴
「余計なことを言うんじゃない!!!」
あやね
「最っ低」

そうして、二人で校門を出たところに、この間の女の子が待っていた。

???
「あの……違ってたらごめんなさいだけど、あやちゃんだよね?」
あやね
「!!! 信乃ちゃん……!」
信乃
「わあ、やっぱりあやちゃんだ! 星華学院に通ってるとは聞いてたけど、芸能学校はすごいね〜。昔とは全然、雰囲気が違ってて……」
あやね
「ひ、人違いじゃないかしら?」
信乃
「……え?」
あやね
「セレブのあたしと、あなたみたいな庶民とは、その……住む世界が違うと思うし……」
信乃
「……」
あやね
「さ、行くわよ、セバスチャン」
信乃
「あやちゃん……」

後日、本屋にて――

あやね
「(『VOGLE』のオーディション、ナオミ・シンクレアさんになんて、いくらなんでも勝てっこない。やっぱ、バディには本当のことを言って……)」
あやね
「(ううん、ダメよ。そんなことしたら、今まで築き上げてきたあたしのキャラが……)」
十萌
「あやねちゃん!」
あやね
「ととと、十萌さん!?」
十萌
「『VOGLE』の最新号を買いに来たのですか? あやねちゃんは、本当に勉強熱心なのです」
あやね
「ま、まあ、当然ね」
あやね
「(良かった。ファッション誌に挟んで隠してた、『月刊百合娘』はバレてない……)」
あやね
「(ほんとのあたしは、冴えない百合好きマンガオタク。懐かしいな、信乃ちゃんとゆりゆりな本を読んで、徹夜で薄い本作りに励んだ日々……)」
あやね
「だけど、地味でオタクなあたしには、もうサヨナラするって決めたの。だから星華学院に来たんだし。毎朝、遅刻ギリギリまで時間使ってメイクして、学院では天才セレブギャルモデルの織部あやね様になって……)」
あやね
「(ごめんね信乃ちゃん、知らないふりなんかして……)」
あやね
「きっと、許してくれるよね」

あやねは学内の選抜テストを勝ち抜き、見事『VOGLE』のオーディションに参加エントリーされた。
朗報を伝えようと電話も掛けてみたが、応答がない。
仕方なく、あやねが住んでいると話していた高級住宅街に向かう。
ところが、織部邸なんてどこを探しても見当たらない。
やっぱりそうだったかと、ため息をついたところに、あの信乃という子が声をかけてきた。

信乃
「あの……もしかして、あやちゃんのバディさんですか?」

ちょうどいい、この子に本当の住所を聞こう。

信乃
「ここは、あやちゃんが住みたいって言ってただけの場所だから……」

信乃に教えられた住所は、学院の近くにある商店街のものだった。

信乃
「あやちゃんにお手紙を送ったんです。届いてるとは思うけど、お返事がなくて……あやちゃんに会ったら、よろしくお伝えくださいね」

そうして、商店街を訪れる。
信乃に教えられた番地には、「肉のおりべ」という精肉店があった。
勝手口のインターホンを鳴らすと、

あやね
「はいは〜い」

――ガチャッ。
ドアを開けて顔を覗かせたのは、ジャージに眼鏡の、ひどく地味なあやねだった。

あやね
「新聞屋さん? うちは……セバスチャン!!! なななな、何でここに……」

事情を話し、『VOGLE』オーディションへのエントリーが決まったことを伝えても、あやねはうろたえるばかり。

あやね
「おおお、お肉屋さんにいるのは、庶民の暮らしを体験したいからで……特別にお店を作らせて、あたしも庶民の格好をって……え? 信乃ちゃんに会ったの? 手紙?」

信乃からの手紙は届いたばかりで、まだ開封されていなかった。

あやね
「……」

手紙には、信乃が父親の海外転勤でイギリスに住むことになったこと、そして、あやねへの感謝とお別れの言葉がつづられていた。

信乃
『あやちゃん、星華学院に通うようになって生まれ変わったんだね。生まれ変わったあやちゃん、とっても素敵だった。きっと夢を叶えられるよ。離ればなれになっても、いつまでも応援してるからね』

出発の日は今日だ。
あやねは家を飛び出し、空港に向かう。
けれど、辿り着いた時はもう、信乃の乗った飛行機は飛び立っていた。

織部あやね

あやね
「……」

あやねはいつまでも、銀色の翼が消えていった夕暮れの空を見つめていた。

あやね
「あたし、バカだ……」

織部あやね 後編につづく

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