スタプラ! star plus one

『スタプラ!』キャラクターエピソード

織部あやね 前編

星華(せいか)学院。
世界的に有名な芸能学校であるここでは、芸能部とマネジメント部の生徒同士が「相棒(バディ)」になるのがルール。
だが、相棒はいまだ見つからずにいた。
かつては芸能部で将来を嘱望されていたが、ケガのためにマネジメント部に編入になって以来、夢を見失って腐っていたのだ。

この先、どうしたらいいのだろう?
途方に暮れて、学院の裏庭に座り込んでいた。
もういっそ、この裏庭の塀を越えて、誰にも悟られぬ内に学校を去ろう。
決心しかけた、その瞬間……
――ドシーン!
何かが塀の上から降ってきた!

「痛ったー……何これ、超サイアク〜」
十萌
「どうしたのですか?……って、あやねちゃん!?」

騒ぎを聞きつけて、学院の事務員見習いである十萌さんだけでなく、他の生徒たちも集まってきた。

あやね
「(やっば。遅刻しそうだから塀を乗り越えたの、バレちゃうじゃん)」
十萌
「ああああ、あやねちゃん! 学院の中で、ふ、不純な行為は……」
あやね
「はあ? 十萌さん、何言ってんの?」
十萌
「だって、あやねちゃん、人の顔の上に座って……!」

息が苦しい。

あやね
「なな、何かの勘違いよ。これは、えっと……庶民のこいつが、どうしてもセレブのあたしの椅子にして欲しいって言ってくるから!!!」
十萌
「………」

目が合うと、十萌さんは引きつった作り笑いを浮かべて、

十萌
「と、十萌は決して、ちっとも、軽蔑したりはしないのですよ。趣味っていうのは、人それぞれですからね、うん……」

もはや言い訳する気力も湧かない。

十萌
「とにかく、これは運命かもしれないのです。あやねちゃんも、まだバディが決まってませんでしたよね? これを機会に、どうでしょう?」
あやね
「ええっ!?」
十萌
「決まりですね! それじゃ十萌、さっそく手続きを済ませてくるのです〜」
あやね
「えっ、ちょっ……はぁ、ま、いいか。今日からよろしくね」

そうして、このスラリとした長身の美少女は、握手を求めてくるのだった。
織部あやねとの出会いだった。

抜群のスタイルに、その場に立っているだけで目を引く美貌。
明るくさばさばした性格に、抜群のファッションセンス。
そのうえ家はセレブだという。
学院の女の子たちの間では、あやねは既にスーパースターだ。

あやね
「あんた、庶民にしては、なかなか優秀なマネージャーじゃない。あの娘たちが来るし、ちょっとそこに立っててくれる?」
取り巻きA
「あやね様〜! 去年までイギリス王室に務めてた専属の執事を見つけられたって、本当ですか〜!?」
取り巻きB
「この人って、この前、あやね様が顔面にお座りになられてた……そんなにロイヤルな人だったんだ〜」
取り巻きC
「ようやく、あやねさまにふさわしいバディが現れたんですね!」
あやね
「まあね……って、ちょっと。そういう、あきれたような目で見るのはやめてくれる? イギリス王室の執事だったって設定なら構わないでしょうが」

特待生のあやねは、授業の課題だって軽々とこなしてみせる。

取り巻きたち
「あやね様、今日も高級っぽくて素敵〜っ!」
あやね
「先生、みなさま、ごきげんよう。さ、帰るわよ、セバスチャン」

執事と言えばセバスチャンなのだそうだ。

先生
「織部君、ああ見えてすごい才能の持ち主だし、もう少し……」

朝の遅刻を減らしてくれたら、追試だって受けずに済んだのだ。

あやね
「遅刻の原因? だって、あたしってセレブじゃないの。身だしなみ整えるのにも時間がかかるのよね。ったく、学院も少しは理解して……セレブは裏庭の塀を乗り越えたりしないですって? そんなこと、どうでもいーじゃん。あほー!」

追試は無事に合格したが、今度は何だか元気がない様子。
目の下のクマも目立つし、睡眠不足なのだろうか。
お昼の時間になると、

十萌
「お二人さん、意外とうまくやってるみたいですね!」
あやね
「まあね」
十萌
「ところであやねちゃん、お昼ごはん、最近食べてないって聞いたんですけど……」
あやね
「庶民の食堂が出すものなんて、セレブのあたしの口には合わないじゃない」
十萌
「だめだめ、ダメですよ! あやねちゃんが、これ以上細くて綺麗になったら、十萌が嫉妬しちゃうじゃないですか!」
あやね
「と、十萌さんがそこまで言うなら……」

がっつり食べてもらったところで、午後は台本を渡されてのお芝居のレッスンだ。

あやね
「あなたには、18時に貼られる半額シール付きのお総菜がお似合いだわ!」
先生
「素晴らしい! 声だけでここまで小物の成金を表現できるなんて!」
あやね
「いらっしゃいませー。756円になりまーす、お箸もお付けしますか?」
先生
「織部くんのようなセレブに、庶民のアルバイトの役はどうかと思ったが……なんてリアルな表現力なんだ!」
あやね
「ま、余裕って感じ?」
取り巻きたち
「さすがです、あやね様!」
先生
「次は柏木くんと、二人一組になっての演技だ」
ノエミ
「よろしく、お願いします」
あやね
「こちらこそ……わ、超きれいな子……」
ノエミ
「……?」
あやねの妄想
「ノエミ『演技なんかしたくない。あやね、本当の私を教えて……ほら、すべてを脱ぎ捨てるから……』」
あやね
「……ぶふふっ、でゅひっ」
先生
「お、織部くん?」

思わず、ため息をついてしまった。
あやねには隠していることがある。
何を隠しているのか、おおよそは想像がつくが、いちおう確認してみた方がいいだろう。
そんなことを考えている時、ある女の子に出会った。

織部あやね 中編につづく

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